あなたはギンガムチェックの人間です

 自分の服を他人に選んでもらう遊びをしている。
「自分の服を自分で選ぶといつも同じような服になっちゃってつまらないから、僕の代わりに服を選んでくれないですか」
 という建前で行っている遊びなのだけれど、本当はただ面白そうだからやっている。
 実際に参加してくれたのは現在のところ2名で、ひとりは高校時代の同級生(男)。もうひとりは元会社の年上の後輩(女)。
 2万円くらいまでなら大丈夫です。選んでくれた服は絶対に買います、と告げてあとは彼らの後ろをついていくことにしている。この遊びで重要なのは、僕が服に対して反応を示さないことだと思っている。僕は僕が気に入る服を買いたいわけではなく、僕に選んでくれた服を買いたいというわけである。

 同級生が選んでくれたのは、ユニクロの白黒のギンガムチェック柄の襟のないシャツだった。これはたしかに自分では絶対に買わないやつだ! すごい! と思った。まず僕はチェック柄が自分には全然似合わないと思っているし、襟のないシャツなんて着たことがない。どうしてこれを選んだの? と聞いてみると「俺はとにかくかわいい服のことしか考えてないから」というものすごい答えが返ってきて笑ってしまった。それはもう外黒えいすけのことを考えていないじゃないか。ただ自分のセンスが全開に発露しているだけである。でもそういうのも面白かった。上限が2万円なのに1990円のシャツを選んだところにも何かしら感じるところがあった。

 年上の後輩が選んでくれたのは、無印良品の白黒のギンガムチェックの襟のあるシャツだった。戦慄した。
 そのシャツは同級生が選んでくれたものとほとんど全く同じものだった。自分では絶対に買わないと思っていた、既に1着持っているシャツ。僕は震える声で尋ねた。どうしてそれにしたんですか? 後輩は「これが一番かわいいから」と答えた。動悸が激しくなって冷汗が出た。『世にも奇妙な物語』でも見ている感じだった。根本的な世界の構造にひびが入る。同級生の言葉“俺はとにかくかわいい服のことしか考えてないから”を、彼のセンスでしかないと断じた僕は間違っていたのかもしれない。彼はまさしく僕にかわいい服が似合うと考えたのではないか? 僕は本当に白黒のギンガムチェックの人間だったのではないか? あまりに驚きすぎたので事情を説明した。その服はもうすでに持っていて僕は今、自分の世界観がぶっ壊れているところです、と。後輩は「え、いやだ」と言って、本当に嫌そうな顔をしていた。あ、嫌なんだ。自分が選んだ服が他人の選んだ服と被ると嫌なものなのだろうか、僕にはそこのところもよくわからなかった。上限が2万円なのに2990円の無印のシャツに行きつくところも、何かしら感じるところがあった。

 性別も年齢も違う人たちが全く同じ服を選んだことは非常に興味深い出来事として記憶に刻まれている。
 僕はこれからもしばしばこの遊びをしたいと思っているけれど、もし今度の人も白黒のギンガムチェックを選んだら辞めようと思っている。それはあまりにも人生の方向性を狂わせる。もし三人目が白黒ギンガムを選択したら、もうその服を一生着続ける他なくなってしまうように思う。他人からは、僕がギンガムチェックを完璧に着こなす人間に見えるということなのだから。それが最もすぐれた回答であるということなのだから。ストライプのシャツを着ている時、他人からは(なんでギンガムチェックを着ないんだろう?)と思われて過ごすなんて、やりきれないではないか。