四月

 四月は忙しい。人生の様々な局面で出現した人々が、改めて目の前に現れる。交友の狭い人生という自覚はあるにせよ、それでも予定が詰まっていた。明日も人に会うことになる。これはなんという現象なのだろう。人間はある時期に到達すると活性化し、僕はその波に飲み込まれる。それは人間の意思を超越したもののように思われる。長らく疎遠になっていた人から声がかかり、どこかの街角で待ち合わせ、そして話し、また長い空白の期間に入る。生活は単調に戻り、静かな部屋の中でカーテンの隙間から漏れ入る陽の光を感じながら読書をしていると、いつの間にか人間達は一斉に活性化し、その波に飲み込まれる。彼らに何が起きているのだろう。四月。山奥の洞穴から腹を空かせた熊が這い出てくる。虫たちも目覚め始める。離婚することにした、と連絡が来る。あなた何か送ってくれない? そうでもしないと、私の顔が立たない、連絡が来る。飲んでたから外黒さんも来るかなと思って、と連絡が来る。外黒さん感謝の会を開きたいと思います、薄汚れた金があるので、それで飲みましょう、と連絡が来る。Vtuberがコラボをしています、スシローに行きましょう、と連絡が来る。トランキライザーを服用しています、と連絡が来る。水族館へ行きましょう、と連絡をする。どこかへでかけ、そして帰宅する。風呂に入って歯を磨き眠る。僕の意識は原点に戻っていく。いつもの小学4年の夏休みに。人生に驚くべきことなど何も起きない。蒸し暑い部屋から窓の外を眺め、そう思っていた。それはあの頃に学んだひとつの事実だった。何年も時を経て、新しい事実を学んでいる。人生には何が起こっても不思議ではない。