真夜中のポテトチップス

 雨、休日。となると今日は紅茶の美味い日だ。分かっているものの、億劫で感覚を実用しなかった。
 こんな日はくもも顔を見せない。くもは誰の目にもつかない場所で眠っている。壁と箪笥の隙間や、何年も履いていない靴のかかとのところや、おばあちゃんが大切にしていた薬箱のかげのところで。
 窓の外、しぶきの音が近づいてきて遠ざかる。音の感触は視覚と結びついてグレー。甘いバターみたいな匂い。
 目がしょもしょもする。シャワーを浴びてわずかに読書を進めた。それから賞味期限の近くなった生たまごをすべてゆでた。銀色のなべの中でたまごがぶつかりあってこつんこつんと奇妙な音をたてている。ものすごく小さな洞窟の中を革靴のビジネスマンが歩いている。
 塩をかけ2つ食べ、残りの3つは冷蔵庫に入れた。
 あとで食べるための玉子。

 昨晩のうちにチケット予約しておいた『シン・ウルトラマン』を観に行く。公開日に映画に行くのは久しぶりだった。カレンダーにマークしておくくらいには期待していた。休日なので首の伸びたTシャツの上に適当なウインドブレーカーを羽織ってだるだるのジーンズを履いてポケットに財布を突っ込んでビニール傘を持ってこんなに気の抜けた格好もないと思いながら映画館へ向かう自由。その気楽さも含めてわたしは映画館が好きだ。電車で10分ほど行くと映画館のある街に着く。濡れた灰色の町にはカラフルな服を着た人間たちが群がっていた。『シン・ウルトラマン』を見た。面白かった。

 映画から抜けきっていない頭のままヨドバシカメラに入ると強い眩暈がして倒れそうになる。もともと眩暈様の症状を感じるタイプだけれど加齢とともに脳内の不安定感が強くなっていくように思う。強い光にも弱いし情報量の過多にも弱い。カモノハシの模型がかわいかったので、お土産に買おうかとても悩んだけれど、他にもチーターの仔や、小さい獰猛な恐竜など色々なかわいいものがおり決めきれず退散した。

 中規模のブックオフに入った。マンガのすべてにビニールがかかっていて驚いた。いつからブックオフは立ち読み禁止になったのだろう? いつもものすごく暇そうな人たちが全力でリソースを消費して立ち読みしている空間が割と好きだったのに、あの光景を見ることももうないということか。古本なのにビニールというのも違和感だけれど、がらんとした棚と棚の隙間の道は奇妙にすっきりして、犬のいなくなった犬小屋みたいだった。

 大規模なジュンク堂に入った。本屋というものはいつも恍惚と絶望とふたつ我に与えてくれる。読みたい本と読み切れない本と。積読書がまだまだたっぷり残っているのに本を買ってしまった。後悔は特にないけれど消費することは非常に難しい。映画もみたいしアニメもみたいし文章も書きたいしゲームもしたいし時間だけが全く足りない。仕事を辞めて半年くらいみっちり消費活動だけしていたい。疲れているし記憶力も衰えてきた。息が苦しい。

 帰宅して洗濯をした。それから本棚にタブレットを埋め込んだ。大きいテレビとモニタを比較した。Vtuberを見た。それから文章を書き始め、まだ書き終わっていない。読書をわずかにした。眩暈について調べた。真夜中になってスーパーに買い物にでかけた。そこでわたしはポテトチップスを買った。まよなかのポテトチップス。眠ることと食べることについて考えた。まだ雨は降りやまない。くもたちも姿を見せない。