人間とかかわる事

 元先輩と秋葉原で終電近くまで飲み歩いていたので命が削れた。
 酒を飲み過ぎることの最悪な点は、肉体的な苦痛よりも気分が落ち込むことだ。
 ぼくはいつものように飲み過ぎたし、翌日はひどい気分になった。
 吐きそうだし、胃腸は弱っているし、生きていても無駄だという飲酒性の鬱が襲ってくる。
 元先輩から外黒さんは飲み過ぎると人格が変わって周囲に配慮しなくなるので飲むペースをコントロールできるようになってください、と長文でメッセージが届いた。
 死にたい気分が一気に増した。でも彼の言っていることはごもっともであると思う。
 酒量をコントロール出来たらいいよね、と思う。でもある種の人間はコントロールが効かなくなる、ということを彼はまだわかっていないんだろうなあと思う。
 酒をコントロールできるアル依はいない。
 コントロールできないからアル依になるんである。
 ぼくは明らかにその性質があるので、また断酒するつもりです。
 コントロールできれば、それはすごいことだとは思うんだけれど。
 酒はきらいだなと、また思う。リスクの方が常に大きすぎる。ぼくにとってはほとんど毒だと思う。

 秋葉原メイドバーを4件ほど回った。元先輩は通っている店があって、そのキャストの子にプレゼントまで用意していた。大人な遊び方してるなあと思う。そうやってなんらかの関係を持続させるのってぼくには難しいことだし、ちょっとした憧れさえ感じる。ぼくはメイドバーに行く機会が非常に多い方だと思うけれどメイドバーが特別に好きだというわけではない。そもそもぼくはメイドさんとほとんど話さない。基本的には一緒に行く人についていくだけだ。元上司の中にもメイドバーが好きな人がいてその人もしょっちゅうメイドバーにぼくを連れて行く。うるさい居酒屋も好きではないし、渋いバーが一番いいんだけれど、それだって絶対にそうしたいわけではないし相方の希望を優先したい。それで誰かが楽しんでくれればそれでいいと思う。
 地下アイドルのライブを見られる箱があってそこも案内してもらった。エンタメが好きなのでぼくは踊っていた。小さなステージにはビニールの膜が張られ、なんだか奇妙なsf作品の舞台みたいだった。元先輩からは盛り上がりすぎだと引かれた。でも楽しいという気持ちを表現することは間違っていないとぼくは思う。
 最後の店では飲み過ぎてほとんど記憶がない。どうやって元先輩と別れたすら思い出せない。ぼくはどうやってかえって来たのだろう。lineを見ると送信した記憶のない文章が2,3ありぞっとした。記憶がなくなることはもう慣れてしまっているけれど、慣れているということ自体が異常なのだよな。
 ぼくは飲めば飲むほどある種の人間に面白がられる人間である。だからぼくに飲ませるのが好きな人は結構いる。でも飲み過ぎたぼくは結局のところ出血したり粗暴になったり、自分が何をしているのかがわからなくなったりする。それは全然おもしろいことではないし、むしろ危機的であるという自覚がある。

 とある人に誕生日プレゼントを渡した。
 その人からもプレゼントをいただいたところなので、お返しの意味も込められている。
 成り行きでサプライズみたいな渡し方になって、彼はそこそこ戸惑っていた。
 ぼくはサプライズみたいなやつはあんまり好きじゃないなと思った。
 でも普通に渡して恐縮されるのもあんまり好きじゃない。
 一番いいのは渡した瞬間に一瞬で爆発的に喜んでもらい、10秒くらいで感情が0に戻る状態であると思う。
 そんな人はひとりも見たことがないけれど、そういうのがいいと思う。

 寝ようと思ったら元上司から電話が来た。元上司の電話口からは子供たちが楽しく遊んでいる声が聞こえていた。元上司はうちに入りなよ。給料上がるよ。って何度も何度もずっと勧誘してくれる。とてもありがたいことだ。彼のいうことは間違っていない。ぼくもいつまでもふらふらしていないでどこかに決めるべきなんだろうなと思う。でもぼくは新しい環境が不安だし面倒くさいし、そもそもその会社の体制的にあまり芳しくないし、人が足りていないということに対してちょっとした不信感がある。人材不足は個人単位の負荷を上げる。話を聞いてみるとメンタルをやられている人が出てきたり、唐突な人事が発動しててんやわんやになっていたり、めちゃくちゃなようだ。人材もなんというか、個性的な人が多く、居眠り癖のある人、セクハラで飛ばされてきたおじさん、腕に数珠をしてはなくそを食べる人、一日中誰とも喋らない人、新人いびりをして部署を飛ばされてきた人など、ちょっとした吹き溜まり感のある集団であることをぼくはしっているので、二の足を踏んでもいる。待遇は今よりもよくなるとは思う。でもどうだろう。その会社に入ったところでぼくは別に満たされることはないんだろうなってもうわかっている。
 ぼくは作品が作りたい。