冷えた水は世界で一番うまい

 伝説のすた丼渋谷店でこれを書いている。

蒸し暑い。本当に暑い。たぶんエアコンがぶっ壊れている。カウンター席の間隔は狭く、隣の席のむくつけき男子共の肩とぼくの肩が今にもぶつかりそうだ。これが生きるってことの現場だ。暑く、そして食らうこと、狭い場所に押し込められ、ひたすらに待たされ……ぼくたちは動物だ。ただただ飯を食らい世界を放浪する動物に過ぎないんだ! という気持ちが高まってくるにんにくの匂いと爆音のjpopと蒸気とさ

 伝説のすた丼を出て、帰宅ラッシュの電車内でこれを書いている。

目の前には髪の薄い筋肉質の男性が本を読んでいる。そして暑い。車内もすた丼に引き続きエアコンの風がほぼ無くなっており、これが9月の罪だ。9月を裁け。隣に立っているサラリーマンがにじり寄って来たので仕方なく連結部分にめり込んだ。いつもだれかのためにこうして席を用意しておくのか。ぼくはどうせ天国行きだ。

尾崎放哉の有名な自由律に(咳をしても一人)という素晴らしい句があるが、対になる句を考えた。(一斉に食べ始める二十人)何かを食べている人間の集団というのはどうしてあんなにうるさく感じるのだろうな。それはきっと生命が、生きるということを音以上に表しているからなのだろうな、食べるということが。それにしても昼食を抜いたあとのすた飯は非常に美味いものだ。唐揚げも揚げたてで衣がさくさくしていて固すぎず柔らかすぎずで丁度いいし、濃い味のすたみなの合間にたくあんを食べるとこれがまた素晴らしいさっぱり感で、最後に熱い味噌汁を一気にすすったあときんきんに冷えた水が一番うまい。冷えた水は世界で一番うまい。人間はうごく水たまり。

マスクをしていると顔も熱くなるけどそれ以上に眼球への蒸気ダメージが多すぎてぼくはそれがずっと気になっている何年も気になっている。眼科が蒸気で、余計に乾く、という症状が発生する。

 そして今、帰宅してこれを書いている。いろいろな場所で書いてみると、書かなくていい事までつらつらと、氷上をスケートする時みたいに、慣性で書き続けるところがある。書きたいとかも思っていなくて、ほとんど別のことを考えながらなんとなく書いている。そしてはじまったときと同じくらい何も考えず何も思わずに文章が終わる。