最西端

 6:10 起床。身体やや重い。ランドリーで洗った気持ちのよい服を着る。シャワーで寝癖を洗う。

 6:30 ホテル1階のサロン兼食堂へ。混むのを嫌って食堂の営業開始に合わせたが、既に何人も並んでいる。旅人の朝は早い。和洋バイキングで料理は豊富。どれも美味しそう。ウインナーやパンや卵焼きやサラダ、ナムル、コーンポタージュなどをトレーに盛る。空いていた席に座ると目の前が開いた窓だったので寒かった。早朝の新山口駅は薄い青に染まって閑散としており、タクシー乗り場にもバス停にもほとんど人がいなかった。

 7:30 旅の支度をする。再びシャワー、髭剃り、歯磨き、髪型のセット、パッキング、少しだけ残った炭酸水を迷ったあげく飲み干す。着替え、忘れ物のチェック。それから忘れ物のチェック。最後に忘れ物のチェック。枕の下、布団の中、バスルーム、デスク周りなど何度も見る。フロントにカードキーを返却しチェックアウト。お世話になりました、と言ってみる。ありがとうございました、と返事あり。

 7:56 新山口駅。JR山陽本線、下関行き着。黄色いかわいい電車。客は少なく快適。ワンマンではない。車中で旅程確認。頭の中でスケジュールを組む。車窓から田園を確認。遠くに海。稲が倒れた田をよく見かけてしまう。立ち昇る煙。にんげんが生きている。

 8:57 幡生駅着。山陽本線から山陰本線に乗り換え。陽から陰へ。混ざり合う光と影。切符を拝見するという駅員さんが車内を経巡って来て、学生の定期券未更新をみつけて静かに叱っていた。

 9:07 梅ヶ峠駅着。無人駅である事は事前にネットで調べてあった。車内を巡回してきた車掌さんに無人駅の場合、切符はどうすればいいか尋ねた。箱があるので入れてください、とざっくりした答えが。梅ヶ峠に着いてみると、たしかに入り口の真ん中に大きな箱があったので入れた。

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 毘沙ノ鼻に向かって歩き出す。引き返せないレベルまで進んだところで道を間違えたことに気づいた。正しいルートのおよそ2倍歩くことになった。普通は車で行くルートであるため非常に疲れた。海の際を歩く場面では、波が高すぎて堤防を超えて道路に降り注いでいる箇所があり、ゲームをやっていてよかったと思った。マリオでタイミングを鍛えたおかげで波は被らなかった。山道をひらすら上る。大きな黒いムカデや、鬼カラーの大女郎蜘蛛など虫がよく育っている。

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 煩悩の石だろうか。

 11:24 毘沙ノ鼻に到着。本州最西端の地。縦断完了でよいと思う。もう充分に縦断した。最西端のベンチに座って岩と海と空を見ながらメロンパンを食べた。風が強く吹いていた。白波が岸壁にぶつかり弾けて消える。毘沙ノ鼻の展望台で空手の型をしているおじさんがいた。おじさんは息子に何かひっきりなしに話しかけながらずっと妙なことをしており、息子は一言もしゃべらず父親を見つめていた。それがぼくの見た最西端の光景だ。広大な海と、光を浴びた島と、奇妙な親子。

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 13:56 下関着。駅前のショッピングモール「シーモール」を訪れる。シーモール♪ シーモール♪ シ・モ・ノ・セ・キ♪ 中毒性の強い音楽が流れていた。フードコートで適当に九州とんこつを食べると、予想外においしい。コーンポタージュ系のスープだけどあっさりしていた。チェックインの時間を潰すため漁港に座り込む。目の前を大きな川が流れているように見えたが、これはよく考えると日本海と瀬戸内海のつなぎ目だ。そして彦島と本州を分断している流れでもある。彦島側はこんもりした山が光を浴びており、麓に小さな町が広がっている。ドラマティックだった。

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 休みながら周りを見渡してみると、背後の山の上に鳥居が見える。とんでもない角度の階段を上がっていくと山の上のひっそりした神社に出た。お参りをして、見晴らしのよいベンチに座ってみた。遠くまで景色が見える。風が気持ちよい。来た階段とは違う階段から帰ろうと思い、細い階段を下りかけると、道の途中を無数の花が遮っていて通れなかった。もしこれがRPGなら「花なんかかき分けて進めるじゃん」とぼくは思うはずだ。でも、違う。花が道を塞いでいて通れないというのは、とてもリアルな現象だ。

 西日本にはイタチがたくさんいるようだ。神社には猫ぐらいカジュアルにイタチが歩いていたし、松江でも真っ黄色なイタチがいた。あまり見たことがなかったので、黄色の毛皮の鮮やかさに驚いた。

 道を歩いていると、枯れ草がいつまでもついてきた。ホテルにチェックイン。今日はたくさん歩いたので、スニーカーを磨こうと思う。

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