RimWorldひと段落

 ここ四日ほどRimWorldというゲームで遊んでいた。

 四日間で寝落ち含む81時間だから、ほとんど寝なかったし、リムワールド以外のことは何もしなかった。トイレにもほとんど行かなかった。一日一食しか食べなかった。ベッドに寄りかかったら寝ていて、気がついて目覚めてそのままプレイに戻る、という廃人プレイだった。ボトラーになってしまう人の気持ちがぼくはちょっとわかる。一時停止が出来ない系のゲームにハマったらおそらくぼくもそうなるのだろう。リムワールドは一時停止が出来るので、人間性はそこまで犠牲にならなかった。でも、このゲームはハマる人はとんでもなくハマる。steamのレビューを見ると一目瞭然だけれど、プレイ時間が1000時間を超えるプレイヤーがごろごろしている。4000時間くらいまでいってる人もまあまあいる。一日6時間プレイしたとして1年365日連続しても2190時間にしかならないから、推して知るべしというかなんというか、ゲームのリリースが2018年10月だから、リリースから今日に至るまでほとんど休まずやり続けないと4000時間なんて数字は出てこないわけだし、やり続けている人が現にいるというわけだし、そしてやり続けたくなってしまうゲームだった。このゲームが好きな人は、たぶん想像力が豊かな人だと思う。想像力が豊かであることが楽しむ条件というわけでは全然無いんだけれど、でもこのゲームの面白さの肝はやっぱり想像力なんだと思う。ここでいう想像力についてちょっと考えた。

 シミュラクラ現象というのがある。逆三角形の点が三つあると、それが顔に見えるという人間が持っているシステムのことだ。有名な言葉だからぼくも知っている。

 わざわざ描いてみた。三つの点は顔に見える。五つの点は顔に見えるだろうか。ぼくは五つの点も顔に見える。目が離れた鼻穴の大きな人に見える。すごくどうでもいい実験だ。

 このシミュラクラ現象は脳のシステムなので誰でも理解できると思う。で、この現象によく似ているんだけれど、時々、物が感情を持っているように感じることがある。感情が無いものに対して、自然と擬人化して考えているというか、なんか意思があるっぽいように見えるな、と思ってしまう。この現象に名前があるのかどうかは分からないけれど、さっき書いた想像力という言葉は、ここではその現象のことだ。人によっては感受性と呼ぶだろう。ぼくは単に脳の機能の一部で感受性とかではないように思うのだけれども。

 この「無生物が感情を持ってるっぽい感じがする現象」を受けやすい性質の人は、リムワールドがすごく好きになると思う。ゲームの中に登場するキャラクターは多彩な設定値を与えられたAIで、全然生きていないんだけれど、動き回っている姿を見るうちに、どんどん行動パターンや嗜好が把握できるようになって、それは個性を持って生きているような感じがしてくるからだ。

 

 キャラクターの名前はぼくが決めたわけではない。自分で改名することもできるけれどぼくはそういうプレイをしていない。このゲームはたぶん人によって全然違う遊び方をしてると思う。ゲームを通して大きなシナリオがあるわけでもなく、キャラクターに達成しなければならないゴールがあるわけでもない。彼らは漂流者で、たまたま出会っただけの人達で、意気投合して一緒に生活することになったり、憎しみあって殺し合ったり、突然恋をしたり、狂って町を燃やしたりする。ランダムに与えられた性格同士がそれぞれぶつかったり結びついたりするのを、なんとなく見ながら、せめて殺し合ったりしないように調整していく遊びかたをぼくはしている。だからなんというのか、ここにシナリオは全然ないんだけれど、ずっと見ているとシナリオと呼ばざるを得ないような出来事が起きて、それがつながった瞬間とても面白い。この画像はアーウィンという47歳のきこりがお供のロバを引いて新天地を目指しているところ。アーウィンは問題行動が多く、何かと不安定になって仲間を侮辱してひんしゅくを買ったり、かんしゃくを起こして部屋の壁をぶち壊したり、町にいるとろくなことをしないので、ずーっと遠くの大陸の端まで冒険に行かせることにした。大陸の端に宇宙船があって、それに乗って惑星外に行けるかもしれないという情報があったので、探しに行く。パイオニアがいつの時代もならず者なのってこういうことだよなあと思う。旅をしている方がアーウィンは幸福だと思う。でも、旅の途中で死ぬだろうなと思っていた。山賊みたいなやつがたくさんいる世界だった。ぼくはアーウィンが嫌いだったので死んでもいいと思っていた。

 

 一方その頃、町ではめちゃくちゃカップルが出来ていた。カップルが出来ると「ダブルベッドを置いてみては?」というメッセージが出てくるので、その通りにしてみるとちゃんとカップルで寝て幸福そうだ。ぼくが気になるのは一番右の部屋のバッカスさんで、80歳のあばあちゃんだから気にしないのかもしれないけどその部屋すごい嫌じゃない? というかこのアパートすごい嫌だなカップルしか住んでないし狭いし妙に生活感がないし、なんかもうなんとかホテルじゃんこれ、これなんとかホテルだよ、そしてバッカスさんは間違って泊まっちゃった人だよ。この家を作ったのはぼくだしこの人たちに部屋を設定したのもぼくなんだけれど適当にやっているのでこういうことが起きてそういう時が一番面白い。

 

 

 バンディーさんとボーさんが山賊に捕らえられたカリスチさんを助けにいくところも良かった。カリスチさんは50歳の伝道師で、もともとずっと前に町に住んでいたんだけれど、放火魔の性質を持っていて、ストレスが高くなると町に火をつけた。たぶん神がかり的なことを口走りながら放火しまくってたんだろうなあと思う。カリスチさんが生きていた頃のメンバーはみんな死んでいるので、そのことを知っている者はぼくしかいない。このゲームは簡単にキャラクターが死ぬ。リスに引っかかれて感染症で死んだり、火事を消しに行ったら巻き込まれて死んだり、味方の流れ弾に当たって死んだり、とにかくすぐ死ぬし、生きていても後遺症が残って行動が制限されたりする。能力があるキャラも、あまり使えないキャラも、平等に弱い。死んだら二度とそのキャラは出てこない。だから生き残っているキャラクターを見るとありがたい気持ちになる。カリスチさんは放火のせいで町を追放になった。どこかで死んだのだろうと思っていたけれど、こうして現れた時には、しぶとく生き残っていたんだなとちょっと感動した。しかし今度町に放火したら追放ではなく処刑にしようと思った。以前のプレイでも放火キャラがいて、町がひとつ灰になった。ラシェという脱獄犯の設定を持ったキャラで、射撃能力が高かったので重宝したのだけれど、動物の襲撃や感染症の流行で町の人がみんな弱っている時にストレスがマックスになって放火を行い、それを消しに行った全員が炎に飲まれて死んでしまった。放火を行ったラシェがひとりだけ生き残って、ふらふらと歩き回っていた。ぎりぎりまで町の人を助けようとしていたのに、住人の放火が原因で全滅したことがショックで呆然としていたら、ラシェはそれでも人のいなくなった町に火をつけて回っていた。こいつがそうしたいならそうさせようと思って町が無くなっていくのを見ていたら、ラシェは最後に自分が火をつけた家に入って行って、ベッドで眠り始めた。驚いた。じわじわと家が燃えて行った。ラシェは眠りながら自分の火で燃えて死んだ。町には何も残らなかった。ベッドで焼かれながらラシェはやすらかにほほ笑んでいたと思う。あまりにも見事な狂人で感動してしまった。もっとありきたりなAIなら火事=消火活動になると思うんだけれど、火事でも眠り続けるという選択が出来るからこその個性だった。これはたしかにシナリオだと思う。

 今の町の歴史を書いていくとものすごく長くなってしまうので、それは今度資料を作りながらやれればいいと思う。今の町では一応ゲームの終わりを達成したんだけれど、クリアという概念が希薄なので、まだまだ続く。今回もラストシーンがとても印象的で、住人はみんな遠くへ行くんだけれど、みんなを助けるために町に二人だけ残った。ブレイクとハーレイのカップルだ。ゲームも終わったし、町の人もいなくなったし、廃墟に残された二人を眺めていようと思った瞬間、ハーレイがブレイクにプロポーズした。お前、みんなが脱出できるまで言うのを我慢していたのか、この瓦礫と猛獣と賊だらけの荒野に取り残されてしまったのに、そんなところで二人だけの結婚式すんのかよ。すっげえ、超かっこいい。

 彼らはただ、プログラムに従ってランダムに動いているだけだ。表情だって動かないし声も出ない。でも、そこで目にする光景はあまりにもリアルだった。逆三角形の点が三つあれば人の顔に見える。ではAIがランダムにキャラクターを動かすと何が見えるだろう。答えは人生。

 

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