真新しいレディオ

 Amazonダンボールが玄関の前に置いてあった。
 年老いた犬かと思った。
 
 家に入って年老いた犬を開けると、真新しいレディオが入っている。
 コンパクトデジタルカメラほどの大きさで、プラスチッキーなMiCで、3000円くらいだった。
 テーブルの上に真新しいレディオを立てた。それを見ながらねぎまを食べた。
 ねぎまは10本で1700円だった。
 何本あってもいいですから。
 窓の外は異様な黄色の光。二種類のサイレンがたて続けに家の前を通過した。巨大な金属と金属がぶつかり合う音が一度。
 テーブルの上の真新しいレディオはまだよそよそしかった。
 人間はシマウマを飼い馴らそうと何度も試してきたけれど、シマウマは乱暴過ぎて飼えなかったんだって。
 人間もシマウマもかわいい。
 真新しいレディオの電源をONにひねると、なんの操作もしてないのに『天上の楽園の夢幻の宴』みたいな音楽が流れ始めた。ほわわ~んとしたシンセサイザーの音と、それから急に大陸の風を彷彿とさせる二胡の旋律が溢れ、思わずほほえんでしまう。
 どうやら録音用のSDカードにプリセットで音楽が仕込まれているらしく、電源ONでそれが不随意に鳴るみたいだ。
 実に愛らしい。
 PCに繋いでSDカードの中身を確認するとフォルダ名が『絶対経典』としてあった。宗教的音楽だったのかと面くらったけれど、どうもグレイテストヒッツくらいの意味らしい。
 エルトン・ジョンとかロッドスチュワートとか書いているファイルもあり、聴いてみると中国訛りのエルトン・ジョンが歌っていた。
 何が便利かとか、権利がどうのとか、そういうことを何も考えていなそうな、おおらかな作り。これが大陸の価値観。
 真新しいレディオをラジオモードにして、アンテナを伸ばし、チューニングを合わせる。ノイズ交じりのやさしい音が聞こえてきた。アンテナの位置によってノイズが激しくなり、音像は完全な砂嵐になる。
 不確実で、いい加減で、何も進化していない。
 真新しいレディオで、新しくない体験をしている。
 ぼくが欲しかったすべてが、きちんとそろっている。