ほのかに思うこと

 自転車を降りた綺麗な女の人が、少し歩いてくそでかいくしゃみをした。
 桜の花びらが舞った。
 
 川柳を習うならやっぱり咎人の雛さんに習いたいと思う。
“西階段 本議場前            空”
 は、やっぱりいい。
 文学だと思う。
 
“海が、”が最後の文章だと思い込んでいたけれど、そのあとに焔とクリスマスの文章もあった。
“本当のことを言うと、クリスマスはそのことが少しさびしい。”
 という文章を読んだのは一度や二度ではないにせよ、今更文字通りの解釈をみつけて、またひとりで涙ぐんでいる。
 ぼくはクリスマスが楽しみだった子供だが、クリスマスが過ぎてしまえばそれを忘れてしまう。
 クリスマスはそのことが少しさびしいのかもしれない。
 何度読んだかわからない本をまた読み終え、やっぱりこの人の作文は世界で一番面白いと思った。
 
天獄と地国』も読み返していて、舞台設定の妙に打ちのめされる。
 すごいこと考えるなあといつも思う。ホラーも面白いけどやっぱりSFの小林さんは輝き方が違う。
 読み進めていくと天使バトルが始まるんだけど、今になるとその部分はあまり興味深くないなあと思う。たしかに面白いけど、純粋な小林さんの冒険が読みたかった。それではあまりにも小林さんの作風からかけ離れてしまうから、そこに気持ち悪さやグロさをきちんと入れ込むための工夫だと思うんだけれど、プロジェクトヘイルメアリーみたいなことも、全然できたと思うのだよな。
 だんだん『酔歩する男』が読みたくなってきた。
 それから『密室・殺人』もいい。
 初期の小林さんのホラーミステリーSFの切れ味はすさまじすぎる。

『酔歩する男』が読みたくなったのに、『シンドローム』を読んでいた。書き出しの数ページから既にとてもよい。この人の独特の文章には妙に中毒性があり、というかこの作品、なぜかタイポグラフィカルな文章なんだけれど、なぜだろう。すごくいい。詩でこういう形は見たことがあるけれど、小説でやる人はあまり見たことが無い。ぼくは特徴のある文体の人ばかり好きになるんだけど、だから甲本ヒロト種田山頭火最果タヒも好きで、そこには、わくわくする個性がある。残念ながらぼくにはそういう文体はない。ないけど、そういうものを自ら得ようと思えば手に入れられるものなのだろうか。ということも考える。
 そういう文体があれば、ただその文体のためだけに、文章を書くことは、もっともっと楽しくなることは間違いない。
 
 バイクと水泳について考えている。バイクも水泳も、なんというか、人間にとって不自然な状態で行うこと、バイクは倒れるし、水の中にいれば沈む。ぼくは水泳ですごく面白いなと思うことがひとつあって、沈まないためには体の力を抜く。体に力が入っていると沈む。なんかそれがとても示唆的だと思っていて、だから水泳をする人はみんな何か、とても大事なこと、「沈まないために力を抜くことを」を知っているような気がする。水の中は不自由だし、人間にとって不自然な状態だけれど、だから緊張したり無駄に力が入ったりするけれど、それでは逆に沈むから、不自然な状態、緊張しそうな時、力を抜く、浮かび上がる、ということを体感的に知っているんじゃないかなって思っている。そういう、体験から人生観が出来ていくってことがあるんじゃないかなって思っている。ぼくが知っている人の中で水泳を長く続けていた人が三人いるけれど、その人たちはみんな独特の影と、そして不思議とおおらかな気質と、なんとなく自立的な部分を併せ持っているように思ってしまう。そういうのっていいなあと思う。水の中にいることは危険だけれど、危険だから緊張するんではなく、危険をリラックスして乗り越えるようなところが、彼らにはあるような気がするのだ。過大評価かもしれないけれど。
 ライダーは、基本的にめちゃくちゃマイペースでオタクで向上心が高く、割と自尊心も強くて自由を愛する活動的な人間が多い、と思う。ひとり、であることと、くそでかい鉄塊と共にあることがキーなのではないかと思う。あることを始めれば、そのあることが人間の性質に影響を与えること、普通にあるんじゃないかなと思う。
 
 バイク関連の動画をみまくってしまう癖がついたけれど、動画でバイクを見ても、やっぱり全然面白くないなあと思う。
 
 vtuberはほとんどみなくなり、vtuberコミュニティーとは疎遠になってしまった。でもそれも仕方ないことだと思う。ぼくはタイマンでのコミュニケーションが最も好きだ。そして欠点は、どんなコミュニティーにもなじめないことだ。友人は以前と比べれば増えたが、ぼくの年齢の人間の中では、やはり少ないほうだろう。
 
 日本横断をした時、ずっと履いていたエアフォースワンのかかとがすり減って穴が空いた。なんだかそれが愛おしくて、こいつとはずっと一緒だったなって、なんかうれしい。バイク乗る時も同じエアフォースワンを履いているんだけれど、左足の親指の辺りがすり減って表面がぼろぼろになってきた。それもなぜだか妙にしっくりくる。いい靴だ。
 
 あしたもタフな一日になるだろう。
 それを楽しめたらいいなと思う。