こころの勉強をしてきて、極端な解を、ひとつみつけました。
もちろん、すこしばかり含み笑いの解答ですが。
人生が生きやすくなるキーワードは、クズです。
うつになりやすい人、疲れやすい人、傷つきやすい人、怒りやすい人。
そういう人たちには、共通の信念(スキーマ)がある、という説明を、勉強の中で何度も見かけます。
責任感が強い、とか。
完璧を求めすぎる、とか。
他人からどう見られるか気になる、とか。
頭が良い人に会うと、劣等感を感じる、とか。
他人に迷惑をかけることを恐れている、とか。
様々な特徴があるわけですが、たくさんの要素を俯瞰しているうちに、私の中である考えが浮かんできました。
これらの要素は、いわゆるクズの人には、ひとつも無さそうだということです。
より良き人間であろうとすればするほど、メンタルの調子を崩しやすくなるというのは、皮肉なものです。
クズになりましょう。
クズになると、人生が楽になります。
他人に迷惑をかけても、何も感じないし。
他人からどう見られようと、関係ないし。
仕事がミスだらけでも、気にしないし。
誰かに馬鹿にされたら、抑圧せずに怒り散らすし。
頭が良い人には、へこへこしてへっちゃらだし。
弱い者をいじめ、己の利益のみを追求し、人の話を聞かず、遊ぶことだけを考え、それでいて自分のことを世界で一番だと思っており、自分には神のような価値があると思っており、いつでも全能感に満たされていて、どんなに叩かれても、一向にへこまない。
そんなクズになりましょう。
自分で自分を傷つける信念を観察し、特定し、修正し、悲観的な思考から抜け出したあかつきには、おそらくそこには、そこはかとないクズが現れるはずなのです。
地に足のついたクズは、人間としてとても強いはずです。
原始仏典スッタニパータにも、私の説を裏付ける言葉がありました。
“恥を知らず、烏のように厚かましく、図々しく、ひとを責め、大胆で、心のよごれた者は、生活し易い。”
この言葉をみつけた時、笑ってしまいました。
おしゃかさまは2000年以上前から分かってるんだなあ、と思いました。
この言葉は、真実を告げているだけであり、クズになれなんて一言も書いていないし、むしろクズの生き方を否定する言葉がすぐ次に控えているのですが、それでも「生活し易い」と、はっきりとクズの効果を肯定するところが、やはり並みではなく、神だと思います。
中途半端で安易な倫理的教えならむしろ、クズになるな、と即否定するところです。
心理学はひっそりと、私にクズを勧めます。
それは、おおらかな、人の道です。
おしゃかさまが教えているのは、人を超越したニルヴァーナへの道です。
それは厳しい道です。
お年寄りは大切にしよう! という言葉が、私は不思議でした。
その規範を、その価値観を、なぜ私は信じているのだろう。
誰がその教えを、この国に広めたのだろう。
かつて狩猟採集民だったヒトは、老いて動けなくなった個体は捨てていったはずなのだけれど。
誰かがその考えを広め、その最初の概念の根拠も分からぬまま継承され時を経て、2024年の私が何も理解せぬまま、ただ親や教師に教えられ刷り込まれたことを、なんの疑問も持たずに実行している。
そんな気がして、気持ちが悪かったわけです。
電車の中で、お年寄りに席を譲ろうと立ち上がった青年が、逆にお年寄りに強い口調で断られているのを見てしまった時など、特にそういう気持ちになります。
大切にすべきはお年寄りではなく、全人類ではないか。
なぜお年寄りなんだろう?
弱いからか? お年寄りは弱い、と決めつけるのは失礼ではないだろうか。
お年寄りは知恵を蓄えているからか? インターネットの方が便利だろう。
助け合いの精神を持とうということか? それならお年寄りである必要はないだろう。
自分が年寄りになった時、親切にしてもらいたいからか? それならなおのこと、お年寄りではなく、誰にでも親切にすればいいではないか。
私は、お年寄りに親切にしたくないわけではない。
ただ、自然と植え付けられた価値観をまっとうしようとする人が、とても苦手なだけだった。
それは本当にあなたの意思ですか? と思う。
自然と植え付けられた価値観とはつまり、生活の中で「こうすれば上手くいく」という経験が、無意識のレベルに刻み込まれ、思考や行動の核となっているもの、信念(スキーマ)です。
この世に絶対はないし、常識はみんなのものではなく個々人の頭の中に偏在しているし、倫理は問題を提起するばかりで可能性が細分化するだけだし、何も信じられない。誰も答えを知らないのに、誰もが自分は正しいと勘違いをしていなければ息も出来ない。
たくさん考え、必死に自分なりの答えを探そうとする真面目で真摯で愚直で素敵な私には、どんな答えも導き出せない。
しかし、クズならこう言えるだろう。
「おれさっき、お年寄りに席ゆずちゃってさぁぁ~~~えら~~~い」と。
考えているだけの私より、クズの方が尊いと思わないだろうか。
というのは、もちろん、含み笑いの解答ですけれど。