日記

 急に体が冷えている。気温二桁でもなんだか寒い。昔はこんなことなかったのだが、などと加齢を自らに言い聞かせてから、環境への適応の結果、厚着をしなくなり、東京のぬるい寒さにいつまでも油断しながら、故郷の凍みるつま先のことを忘れ、それをただ加齢のせいにしているだけではないかとか、思っている。

 最近、自分の文章が好きではなくなってきた。人の文章を読んでいる方が面白いな、とか思ってしまったらもう、書く意義も動機も、吹けば飛ぶような張子の虎だった延々と書ける駄文の、出ない傑作より出る駄作の気持ちも、今は枯れ井戸のようで、肩を壊したピッチャーの気持ちがよくわかって、どこまでも広い空白を30分間眺め続け、書かれない紙面の無限さがモンゴルの草原で、伝えたいことも、自己表現すらも、もう書きたいこと、書けること、なんにも残っていない、といういつものアレが来て、ソレをずっと待っていたんだ、と思っていきなり元気になる。

 渋谷駅の長い連絡通路の酒臭い雑踏が、今日はよい気味だ。懐かしいテンションという言葉、その意味を体現している小さな成人女性が、すぐ隣を歩いている成人男性に、勢いよくヒップアタックをしている。ヒップアタック、という言葉が頭の中に浮かんだ時、その誰も傷つけられない、おともだちパンチのようなほがらかな、敵意ではありえない攻撃を好きです。

 目覚めよと呼ぶ声が聞こえ、鳥が布団を駆け上り、ぼくの唇をついばむ。この鳥は、寝ている人を見ると、必ず起こしに来る鳥だ。