暑さ夢現

 部屋の中がぼうぼう暑くなってきて、暑いなと思っている。
 暑がりである。暑がりというより、汗をかくのが嫌です。
 それに暑いと頭がぼうっとしてきて、南国の海辺の砂浜にいるような気持ちになってくる。
 見渡す限りの白い砂浜、照りつける太陽の光、眼前の海はきらきらと光輝いて揺れている。
 というような心持ちになってくる。いつもまとまらない思考がなおさら散漫になってたゆたう。
 何をしようと思っていたんだっけな、何も思い出せないな、思い出せないってことは大したことではないんだろう。そう考えて洗濯をしている。暑い部屋の中で。冷蔵庫の上のバナナから、バナナのにおいがしている。南国度が高まる。ここは南国かもしれない。ごううん、ごううん。洗濯機、うなる。ベッドに横になり、枕元の本を何ページが読んでいる間に猛烈に眠くなる。強烈に眠くなる。意識を保っていることができないほどの眠気だ。寝ればいいのに、抗う。眠気と戦っていればいつか勝てると思っているような気がするけれど勝ったことはない。本を読みながら私は寝ている。目は文字を追いながら全く別のことを考えている。私は放課後の教室でひとり窓の外を眺めている。窓の外には雪が降っている。雪が降っている時、世界はおどろくほど暗く、静かになる。私はそこで誰かを待っている。待ちながら罪悪感を感じている。誰かが私を迎えに来ようとしているのだ。雪の中こちらに向かっているのだ。私はその人に電話をしようかなと考え、枕元の携帯を探す。探すけれど携帯はどこかに吹き飛んでいるし、何か変だ。私は携帯が何故必要なのか分かっていない。私は何かしなければならない。誰かに何かを言わなければならない。しかし何を? 誰に? 何かがねじれている。論理的でない。というような、瞬間的な幻想が三連発くらいぶわっ、ぼわっ、どわわ~んと展開され、瞬間的な印象と場面だけを残して即消える。夢と現実の狭間で私の肉体はベッドの上から少しも移動していない。洗濯機がピーピーピーと鳴る。そこでようやくしっかりと現実に意識が定着する。洗濯機が鳴っている現実に私は着陸する。眠いし暑いな、と思いながら立ち上がり、他のあらゆる世界を切り捨てて洗濯物を干す。エアコンをつけずに、この暑さに耐え続ければいつか暑さの中でも汗をかかずに済むようになるかもしれないと考えている。PCを起動させてゲームを始めるとPCがものすごく熱くなりはじめた。CPUファンがぼはあああああああとすごい音をたてはじめた。私はエアコンをつけた。