ファーストテイクをyoutubeで見た。
最初はすいちゃんのステラ―ステラ―を見て、やっぱりすごく歌がうまいなあと思った。
音楽としてのミックスというよりも、歌が真ん中にどんと据えてあるミックスだから、歌のうまさが際立つ。
それからあのちゃんの『普遍』を聞いた。
泣いた。
『普遍』はラジオで何度か聞いたことがあったけれどそれほど好きな歌ではなかったし、普通だなあと思っていたんだけれどファーストテイクの普遍はとてもよかった。歌っている人の姿が見えるというのはすごいことだなと思った。
あのちゃんはラジオの時みたいにパジャマを着て現れ、腹筋をしていた。何をやっているのかよくわからなかったが、あのちゃんらしいなと思った。と同時にあのちゃん、やってんなあと思った。どこまでがやってるあのちゃんで、どこからがやってないあのちゃんなのか私には分からないけれど、どちらでも特に否定したり肯定したりはしなかった。でもそのパフォーマンスのような素のようなパートは導入に過ぎなくて、歌い始めた時のあのちゃんの猫背がとてもかっこよかった。膝も少し曲がっている。なんかリアム・ギャラガーだった。私はリアムのあの歌い方が好きだった。マイクの位置がなんか低いな、という感じなんだけれど、あのちょっとだけ前かがみになる感じがちょうど力が入る立ち位置なんだろうと思う。それがあのちゃんにもある。それから1:56辺りで“神かよ”という部分を歌う時、めちゃくちゃいい顔をしていた。一瞬、目をひん剥いて、それからわずかに顔を歪めて右目だけひきつったように半分閉じる。ものすごくめちゃくちゃ嫌そうな顔だった。それは素の嫌そうな顔だった。カメラに映るべきではない憎しみの顔だった。社会化されていない歪んだ顔はとても真実っぽかった。きちんと丁寧に歌詞に沿った表情を彼女はしていた。表現力が技術ではなく体当たりだった。これがあのちゃんの歌かあと思った。私は共感力が高いのでその時自分の顔がひきつるのがわかったし、なんだか意味もわからず泣きたくなった。それは感動なのかもしれなかったが、もっと簡単に言うならかっこいいなあという気持ちが極まったのだった。こういう風にすんごく嫌そうな顔で歌っている人をちゃんと見たことがない。素晴らしい。あのちゃんは笑ってへらへらしている時は技巧的な感じがするけれど、人を憎むときには自然になる。タヒさんのエッセイを思い出す。悪口はユニークだ、みたいなことを書いていたような気がするけれどそういうことだ。共有され得ない感情というのはとてもユニークで個性的でオリジナルで、その人らしい。そしてそういう生っぽい表情を瞬間的に召喚できたこのファーストテイクはその点において傑作だと思った。私は1:56の辺りを30回近く繰り返して見た。その感動に慣れたいと思った。かみ砕いて解釈しないと先に進めないと思った。自分の顔がひきつらなくなるまで見なければならないと思った。聴いているうちに慣れてきたので先に進んだ。今度は3:38で一瞬殺人鬼みたいな顔になった。私は3:38を30回見た。人間がぐっと力んで上目遣いになってにらみつける顔が歌っている最中の顔だ、というのはとてもいいなと思う。というか私は人が一生懸命歌っている時の、声を遠くへ運んだり言葉や感情を乗せるための表情、みたいなものが好きなんだなと思った。タテタカコさんのPVの顔とかがとても好きだ。なんというか、最初はそういう顔をおかしいなと思って笑ったりするんだけれど、もちろん笑いながら感動しているわけで、結局歌がどうこうというより顔の表現力に圧倒されているだけかもしれない。ものすごく真剣になれば誰のどんな瞬間だってすさまじい、今まで誰も見たことがないような表情になって当然だし、どんな顔をしているかが自分で気にならなくなるくらい何かに一生懸命であるということはそれだけでなんか重要なことを証明しているようだとさえ思う。その時自由だと思う。誰も見たことがない顔をしていてほしいと思う。それがどれだけおかしくても私はたぶんその顔だけで感動している。
歌に感情が入りすぎて泣き声みたいになってしまうのが私は誰の歌でも好きではなくて、それは誰が歌っていても泣きながら歌えば簡単に感動させられるからだった。そういうのはなんというか芸としてのレベルが低いような気がしていた。お母さんだって泣きながら歌えば私は感動する。だからあんまり感情を高ぶらせないで欲しいなと思ったけれど、憎しみの顔はもっとやってほしい。憎しみというかもっと自然な「嫌そうな顔」だ。それは私にとって衝撃だった。はじめて目にした瞬間だった。そして私の中のあのちゃんは「歌う時にきちんと嫌そうな顔ができる人」として刻み込まれるだろう。かわいい衣装を着て笑いを振りまいてバズりそうなダンスを踊るあのちゃんより顔をしかめて猫背で歌っているあのちゃんが好きだ。
それからたまたま新しい学校のリーダーズのファーストテイクを見たんだけれど、最初は下品だなあとかなんか気持ち悪いしインパクトはあるけれど色物っぽくてすぐに飽きられてしまいそうだなと思った。思ったあと、持ち前の探求心で2時間ほど新しい学校の映像を漁っていたらファンになっていた。あっ、今反転してファンになったぞ、とはっきり認識したのは人生ではじめてかもしれなかった。最初の気持ち悪さを超えると、今度はその気持ち悪さが別の感情へと進化する。きれいはきたない、きたないはきれい、みたいな感じで。この瞬間の気持ちを今にも忘れてしまいそうだから書いておきたいけれど、とにかく私の内部でグループやコンセプトに対する肯定感が増し、新しい情報を貪欲に集めたい欲求が増し、情報を更に肯定的意見に変換するシステムが加速している。とても楽しいけれどこの楽しさから今すぐ脱出したい気持ちもある。ファンになったと気づいてから6時間ほどずっと動画を見続けていて、このなぞの情熱が「ハマる」だよなと思う。いつか新しい学校のことも書こう。