蒸気

 激しい蒸気。耳から血が出ている。紙を切り抜いて人型にする。トランスフォーム。形が変わることは考え方を変えることかもしれない。電子煙草を吸っている。蒸気。筒の中で圧力が高まっている。噴出する激しい蒸気は爆発の予感。生きていて命が薄い。今日は食パンを2枚食べました。何もつけずに。よい天気の光がまぶしくて窓にダンボールを張り付けた。呪いの家のようになって圧力が高まっている。爆発物は密封性が高いほど爆発力を増す。ロイヤルブレッドが好きで、ほんのすこしほんのほんのすこし高いけどやっぱり超芳醇より好きだ。僕は無類のサラミ好きだ。カピバラを持ち上げたい。新しい白い靴が欲しい。それから草原にベッドを置いて寝たい。AmazonのファイヤーHD10プラスを注文した。ティーバッグの紅茶をいれて飲んでいる。それからペットボトルをラベルとボトルとキャップに分解してごみ袋に分別する作業を続けた。映画をつけっぱなしにしてそれを見ていない。左足の靴下を右に、右足の靴下を左に履いた。町の中に生えている木の高いところにでっかい黄色い実がなっているやつがあってそれがいつも美味そうだった。今日は5時間くらい文章を書いている。でもそれほどたくさんの文章は書けていなかった。僕は車を持っていなかった。でも昔は毎日乗っていた。近所に草原みたいなところがあって、そこにでっかい草の塊が転がっていた。円筒の草の塊で巨大だ。それが草原に点在していて絵のようだった。それは牧歌的であり不気味だった。さらにもう1枚食パンを食べた。なにもつけずに。小さいライトを持っているので、部屋を真っ暗にしてその小さい懐中電灯で部屋を照らしてみるとだんだん恐ろしくなってきた。ライトが向いた先に幽霊がいたらどうしよう。怖い! となった。それで僕は照明をつけることにしたのだ。フェリーに乗って離島に泊まりたい気持ちが高まっている。ペットボトルの袋をゴミ捨て場に持っていくのが怠い。命が薄い。面白いことがぽんぽん浮かんでくる人間だったらよかったのになあ! という思いが高まってきた。そしたら僕はまずはじめに犬を笑わせたい。僕が小さいころ家には犬がいた。背中が茶色で腹側が白い雑種の犬で、僕はあまり仲が良くなかった。おそらく犬を他人だと思っていたからだろう。でも僕は犬が好きだった。僕が生まれる前には猫を飼っていたのだと聞いたことがある。猫はどんな生き物なのか、あまりよくわかっていない。高校生くらいの頃、庭に黒い野良猫がやってくることがあって、母が餌付けしていたのだけれど隣家のおじいさんの方に懐いて猫を取られたと悔しがっていた。でもおじいさん達は猫を愛していた。そのうち黒い子猫がたくさん生まれたのだが、いつの間にか一家はどこかへ消えてしまった。圧力、蒸気、爆発。スプーンを使わずに砂糖を溶かす方法を開発した。ティーバッグのひもを持って高速回転させるとうまく溶ける。溶け残ったりもあまりしない。紅茶をティーバッグでおいしくいれるコツは何分か蒸らすことにあるのだそうだ。でもティーバッグを高速回転させて砂糖を溶かす方法はどこにも書いていなかった。それはきっと邪道なのだろうと思われた。邪道で非道で外道なのだろうと思われた。でもエコロジーだった。ティー・スプーンを洗う水を省くことができる。エコロジーを突き詰めていくと生活できなくなった。生きていることは消費することなのかもしれなかった。涅槃のポーズが横向きに寝ることなのは示唆的だった。でもファイティングポーズをとっている仏像があっても面白そうだ。ポージングというのはすごく面白いものだと思う。仁王のポーズは仁王みたいに見えるし、トリケラトプス拳のポーズを取ればだれでもすぐ面白くなる。耳から血が出ていますよ、大丈夫ですか。と声をかけられた。えっ。全然痛くないです。大丈夫です。と返事をした。たしかに耳が切れて血が出ていた。笑ってしまった。母は花を盗まれた。花泥棒に花を盗まれたのだ。犯人は近所のおばさんで、そのおばさんは自分の庭に母の花を飾っていた。それもまた意味がわからないことのひとつだ。正気と狂気の線引きは非常に曖昧だった。僕はファットボーイスリムの音楽に合わせて部屋で一人でふにゃふにゃ踊っていた。すると気分がよくなってきた。子供のころから踊るのが好きだった。ジャニーズのアイドルの音楽で僕は踊り狂った。テーブルの上で踊り狂った。踊りとは狂うものだった。けれど踊りは下手なままだ。習ったこともないし盆踊りもできない。でも高校生の頃はバック転が出来た。サトウのごはんを温める時、電気ポットにそのまま入れる方法を開発した。知らない人と話す機会があった。頭の後ろで髪を結っている眼鏡の男性だ。話すのはじめてですね。よろしくお願いしますと丁寧に挨拶をしてくれた。親切でよく笑う人だった。僕は命が薄くなった。水の温度が下がってくるとまたぐらぐらと湯が煮える音がして蒸気が噴出してきた。筋トレをした。youtubeを見た。靴磨きセットを買ったけれどまだ一度も使っていない。黒いローファーを買って、それがかっこいいんだけれど歩きづらかった。ローファーを履いたことが一度もなかった。やっぱりスニーカーが一番よいなと思った。新しい白い靴が欲しい。でも考えてみるともう物は別にほしくない気もした。インディージョーンズのようなものになりたいと思った。ヒーローになりたいわけではなかった。新しい紅茶を淹れようと思う。食塩・添加物不使用のミックスナッツを食べた。そのあとに甘いピーナツバターをパンに塗って食べた。PCのパーツもそろそろ買わねばならない。それから未読書を読み始めたいしかし時間はそれほど残されているわけでもなかった。休めば体も精神も回復していくけれど、その分消耗していく何かがあることにも気づいてきた。ティーバッグを高速回転させて砂糖を溶かす方法がなぜ一般に普及しなかったのかだんだんわかってきた。この方法だと時々紅茶がこぼれるからだ。水面がコップの淵からあふれるからだ。なんて愚かなんだ! 僕は動物の脂を顔に塗った。踊った。飲んだ。書いた。食べた。欲しがった。それから大きくひとつうなずいた。今日はもう充分だろうと思われた。僕の時間が驚くほど速いのは、一秒をじっとみつめていないからだろう。秒針がうごくのをひとつずつ確かめれば、きっと1時間は10時間くらいに延長されるはずだ。黒猫の親子はどこへ行ったのだろう。黒猫は甘えたくなるとあぐらをかいている僕の膝の上に乗って寝た。僕はなんてかわいい猫なんだと思った。なんてかわいい蒸気なんだろう。それはどこへ消えてしまうのだろう。