オーダーメイドの言葉

 朝靄のように、Oさんは言った。
「外黒さん、どうでもいいこと聞いていいですか」
 どうでもいいこと、というのは芸能人の離婚の話とか、コンビニのレシートに印刷されている割引クーポンの話とかだろうか。
「缶に入ってるコーヒーは缶コーヒー、ジュースは缶ジュース、って呼ぶのに、なんでお茶は缶茶って呼ばないんでしょうか」
 ピットブルのように全身に力がみなぎってきた。どうでもよくない話だった。私はそういう話がとても好きだった。
「わかりません」と、私は生まれたばかりの太陽のように答えた。
「ですよね」と、Oさんは体育館でスライディングをしすぎてジャージの膝に穴が空いてしまった小学三年生のように答えた。
 エンドロールが消えた後の映画館のように、静かに会話は終わった。
 まどろみのような時間だった。

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