植え替えをする

 我が家にはスパティフィラムサンスベリアが生えている。

 スパティフィラム花言葉は「上品な淑女」だけれど、花言葉と花はあまり関係が無いというか実際の様子は「狂い咲くタフな犬」という感じで、放っておいてもばんばん花が咲くし、水切れを起こすとものすごくしょんぼりして大げさなくらいに「おれは……もうだめだ……」という声が聞こえてくるくらいに萎れるけれど水をやると6時間くらいで信じられないくらいしゃきっとして元に戻る姿が感情表現の豊かな犬っぽくて、まったく植物らしくない素直な騒がしさが魅力でとてもかわいらしいやつだが、この感じは全然淑女じゃない。植物がこんなにもうるさいと教えてくれたのはスパティフィラムだ。

 その反面、サンスベリアはものすごく寡黙でハードボイルドなやつだ。水やりは月1回でよくて、それ以上水をやると逆に根腐れが起きる。生まれつきのストイックだ。花なんて軟派なものはつけない。ただ何かに耐えるように粛々と生えているのみ。草というよりも鉱物みたいな性格だと思う。そんなサンスベリアだけれど私の育て方が悪いのかひょろひょろ天に向かって長く伸びたのでバランスが悪くなって何度か鉢が倒れてしまったことがある。そのたびに土が床にぶちまけられ、鉢の中の土はどんどん目減りして、すっからかんになっていた(それでもなおサンスベリアは枯れないのですさまじい)。土を補充しなければならないなあとずっと考えていた。それに、買った時に気がついたんだけれど、このサンスベリアはひとつの鉢にふたつの株が植わっている。たぶん一株だけだと寂しいので花屋が二つ寄せ植えをしてボリュームを出させたんだろうと考えた。この機会に二つの株をそれぞれ別な鉢に植えて広々スペースで根を自由に張らせようと考えた。

 

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 なんの装飾もない草だ。なんてかっこいい生き様であることか。私もこいつを見習いたい。

 

 

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 土がない。なんなら土がなくても生きていけるのかもしれないけれど、やっぱりかわいそうだという気持ちになる。根がふらふらなのでバランスが悪いのも気になる。

 近所の100均で観葉植物用の土と少し大きい鉢を買ってきて、はじめての植え替えというやつをやってみた。私は園芸みたいなものは得意ではなく、得意ではないのに好きなので、学生の頃に水耕栽培のパキラやスミエボシを買ったことがあるんだけれど、結局すべて母が引き取って立派に育てた。特にスミエボシは私が学生の頃に買ったやつが今でも生きていて、くそ長くなってしかも小さなかわいらしい花までつけたことがあって、身内のことながら母の栽培能力には驚かされた。一番驚いたのはパイナップルを食べた後に、あの頭のとげとげの部分を植えたら育つんじゃないかと思いつき、実際に栽培していたことだ。どうしたらそんな発想になるのかよくわからないが、たぶん「これは育つ」というなんか直感みたいなものがあるんだろうと思う。あるいは、植物というものが繊細なんかではなく実はめちゃくちゃタフだということを理解しているからそういうことをするのかもしれない。冷凍ライチの種からも芽が出ていた。ほとんどネクロマンサーだ。温室育ちではない、スラムを生き抜いた草たち。

 

 

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 植え替えが終わった。適当に土を詰めて植えてみた。たぶん、この土はサンスベリアにあまり合っていないのではないかと思う。もともと植わっていた土はすさまじく水はけのよいさらさらした砂っぽい土だったけれど、買ってきた土は湿っていてぶかぶかして水をじわじわ含む土だ。乾燥が好きなサンスベリア根腐れしないか心配だけれどしばらく様子を見ることにする。土がやわらかいのでやっぱり少し傾いてしまったけれど、まあいいかと思った。それから植え替えてみて気がついたんだけれど、この株は二株ではなく、実は一株だった。土の下で繋がっていた。衝撃だった。双子だと思っていた人が実はひとりだったみたいな感じだ。ヤマタノオロチみたいに体はひとつで首がふたつあるみたいなやつだった。なんといえばいいのかよくわからないけれど、複雑な気持ちになった。

 

 

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 土のボリュームが増えたので、なんとなくうれしい。鉢もすこし大きくなったのでもっと伸びるかもしれない。もっと伸びてほしい。チューリップより、ひまわりより、大きくなあれ。