加速して円を描く

 あついつかれたしんどい帰宅の電車の中はなんか海藻みたいな匂いがしているいつものことである。夜で、それでもシマウマの背中のように蒸し暑い夏で、さっきまでバイクのエンジンがより直接的に熱く、修行の様相を呈して悟りへと至る道程を法定速度で駆け抜ける。教習は二時間で、そのために昼食を特製ステーキランチセットにしていなければ、おそらくぼくは干からびて死んでいたに違いない。食べることと寝ることは生きることの基本中の基本であり、その根本を疎かにすれば即ち死。即死である。だから高らかに腹減ったぞ! 眠いぞとぼくは叫ぼう。死んだ者共が表現することの出来ない言葉で。バイクの教習はいよいよ佳境に差し掛かる。残すところシミュレーションが一時間、そして見極めが一時間。たったの2時間で大型自動二輪の教習はジ・エンドとなる。長かったような短かったようなそんな日々をわたくしは基礎から順繰りと練り上げてきたの、褒めてつかわそうではないか矮小で脆弱な体躯でよくもここまで鍛え上げたものだ。好きこそものの上手なれとはいうけれど、好きだからってクリアできるとは限らないのが魔界村である。さてそろそろ電車はわたくしの街へ辿り着く。わたくしは帰宅し、夜のご飯をいただき、それから風呂に入ってすっきりしようと思います。加速した家を出、加速して帰宅する。そのとき我々は、いったい何のために加速しているのであるか? そのことを季節のように思います。