おだやかな休日

 教習所でシミュレーションをした。偽バイクに乗って、モニターに映し出されたPS2みたいなグラフィックの街中を走っていると、子供が曲がり角から飛び出して来て、ひかれにくる。という役に立つシミュレーションだ。子供と猫と老人は本当に予想外の動きをする。現実でもそれは同じだ。それから事故を起こした時、ヘルメットがどう損傷するのかという動画を見た。バスに引きずられた人のヘルメットは、3分の1くらいが包丁で切られたように綺麗にすりおろされていた。適当なヘルメットだったらライダーは死んでいただろう。教習所は残り1時間となった。

 この街を訪れるのも数えるほどになったな、と思う。見慣れた駅前のロータリー。たしか図書館もあった。スマホで検索して歩く。駅の近くにあった。うんと久しぶりに図書館に入った気がした。うんとたくさんの本があった。いいなと思った。ぼくは大きくて分厚い、鳥類図鑑を手に取って、椅子に座った。アホウドリの翼はうんと大きくてかっこいいんだ。

 1時間ほど図鑑を見て図書館を出た。駅に向かって歩くと、富士そばが見えた。ふうん、そばもいいな、と思った。何も考えずに富士そばに入り、冷やし鳥そばを食べた。うまかった。ぼくは矛盾を感じなかった。大人になったなあと思う。

 喫煙所でたばこを吸っていたら腕に蚊が止まった。よくいるシマカだった。ゼブラカラーの小さなやつだ。カの足って細くて軽くて、ソフトランディングのためにあるんだなあと思った。跳ねたり歩いたりはほとんど考えていない作りだ。少し刺されたので追い払った。刺された場所はほんの少し赤くなった。カももう少し工夫して、人間にアレルギー反応が起きない唾液にすれば追い払われないのになあと考えた。

 帰宅してゲームを始めると、元上司から電話がきた。他愛無い話をした。元上司は酒を飲みはじめ、だんだん静かになっていった。外黒さん、あんたいい人だよ、と彼は言った。ありがとうございます、それは良かったです、とぼくは言った。ぼくがいい人に見えるのは、まあそうだろうなと思った。常人には理解できないほどぼくは我慢して生きている。1時間ほど電話をして、それからゲームを再開したが、ほどなく強靭な眠気に襲われ、ベッドに横になった瞬間に寝ていた。

 日が暮れてから目覚め、猫のTシャツに着替えてスーパーに向かった。そこでアイスと弁当と十六茶を買った。糖分が入っていなくてカフェインが入っていなくて味のついている飲み物となると、選択肢はもう十六茶爽健美茶とむぎ茶だけになる。帰宅してアイスを食べながらVtuberを見た。

 おだやかな休日だった。