ゆる

 日曜日はワンマン営業なので、デスクでひとりとろろそばなどを啜る。ひとりはひとりで緊迫感があり、不測の事態を常に念頭に置いての行動となるが9割は取り越し苦労となる。携帯で小説を読みながら、緊張と退屈の狭間でひたすら細分化されたタスクを消化していく。待たなければならない連絡を、面倒になって煙草を吸いに行く。自分の責任で仕事をするのは楽しい。ぼくだけが怒られればいいし、ぼくだけが褒められてもいい。シンプルだ。深夜にひとりきりで業務を終え、深夜営業のラーメン屋で群馬のとんこつを啜る。麺ばかり食べている。真夜中のとんこつは胃にくる。具合が悪くなりながら帰宅し、すぐに布団に入る。6時間しか眠る時間は取れなかった。早朝に起床し寝ぼけながら風呂に入り身支度をしてゴミ袋を持って家を出る。小雨が降っていた。ゴミを出して電車に乗り教習所へ向かう。卒検リベンジ。ぼくより先に来ていたのは一人だけだった。しばらく寝て待つ。昨晩の疲労と眠気が抜けていない。検定会場で雨具に着替える。警備員の現場を思い出した。30分待つと8人が集まり、前に聞いたのと同じ卒検の説明を受ける。ぼくはすべて知ってしまっていてそれがなんだか虚しい。ライダールームへぞろぞろ向かい、2回目の卒検を迎える。卒検は一回だから貴重なのであり、最初の一回がピークで、あとはなんの感興も催さない。ぼくの番になると指導員が「緊張してますか?」と聞いてくれた。「一回落ちてるので大丈夫です」と答えると笑っていた。雨の日にバイクを走らせるのは今回が初めてで、いつもと勝手が違うこともあったが特に難しいことはなかった。顔が濡れる。ペダルも滑る。路面は思ったより滑らなかった。問題なく走り、着替えて喫煙所に向かう。灰色の空。検定会場へ戻り長い待ち時間がやってくる。何名かが先に名前を呼ばれ戻ってこない。残った何名かが卒業式という名の事務手続きを済ませ解散となる。教習所を出た足で電車を乗り継ぎ運転免許センターへ向かう。歩いた事がない町で、時々なつかしい緑がドラマチックに広がっていた。

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 駅から30分ほど歩いて免許センターへ。窓口から窓口へ流され進む。人が多く、どの窓口も長い列が続き、ベンチはほとんど埋まっていた。いくつかの手続きを終えると免許を作成するので1時間後に集合と言われる。とにかく今日は待ち時間が長い日だと思う。食堂に向かいカツカレーを食べた。ぼくは役場や図書館や病院などの公共施設の食堂がすごく好きだ。古びていて質素で、飾り気がないところがいい。

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 カツカレーはおいしかった。甘かった。後ろの席でずっと話し続けている女性の声がした。不思議と話の内容が頭に入ってこない話し方だった。何を話していたのかもう思い出せない。1時間待ち免許交付の部屋に行き再び待つ。システマティックに人間が呼び出され番号で管理され列になり出口から去って行く。ぼくの番が来て免許に新しい文字が刻まれていた。ぼくは普通自動二輪にいつでも乗れるようになった。あまり嬉しくはなかった。何も感じない。それはそうだ。ぼくは免許が欲しいわけではない。バイクに乗るのが楽しい。免許は楽しくない。免許センターの入口前にバス停があったので適当に並んだ。雨が降っていたけれど傘をさすのも面倒になって上着のフードをかぶって突っ立っていた。バイクに乗ると傘をさせないので、雨に降られることになるのだけれど、一度その経験をしたら今度は傘をささないという概念が頭の中に生まれてしまった。ささなくて別にいいじゃん。濡れるわけじゃないし。と思っている。折り畳み傘を持っているのに使わなかった。バスに乗ると目的とは違う駅に向かうバスで、どうしようかなあと悩んでいるうちに引き返せない地点まで行ってしまったので大して行きたくない駅で降りてすぐ電車に乗り帰宅した。40分ほどベッドで眠りアラームで目覚め家を出た。ひどい疲れだったし眠かった。歩き、電車に乗り、教習所へ向かった。大型二輪を取りたいんですけど、と受付の人に告げて手続きをするための席へ通され、再び待つ。ずっと何かを待っている一日だ。移動し、待機し、流れる。手続きも2回目なので説明してくれた女性も詳細を省いてスピーディーに処理が進んでいく。2回目は適性検査と住民票がいらないと聞いて喜んだら女性は笑っていた。ぼくは事務手続きにうんざりしていた。教習ならいくらでもやるけれど、なんにしてもこの手続きというものの生産性の無さにいつも辟易する。手続きを終えネットから予約が出来るようになったのでスケジュールを覗いてみると5月はほとんど満席で、6月から動くことになりそうだった。ぼくの住む町に戻りスーパーで買い物をして帰宅した。朝6時から19時までみっちり行動した。一日しかない休日にこんなにたくさん予定を入れてはいけないと思った。これはぜんぜん休日ではない。非常に疲れる。来週はまた五連勤なので、実質11連勤プラス残業くらいの疲労度になると思う。ゆるゆるだとハリがないし、ぴちぴちだと窮屈なので、「ゆる」くらいの密度で日々を過ごしたいなあと布団の中で考えている。