シリアル

 朝ご飯が最大の問題で、朝はお腹がまったく減らない。眠いまま目覚め眠いまま行動を始めることになり、会社に着くと「腹減ったぐう」と思う。その繰り返し螺旋の中で20年ほど生きてきたように思う。水分なら平気なので最近はビタミン剤+野菜ジュースを目覚めてすぐ味も分からぬまま胃に収めるということをしてきたが、そこにカロリーメイトゼリーを加えることで栄養分の不足は無いという作戦だった。しかし栄養分は足りても空腹が紛れるわけではなく、結局お昼を迎える前に「腹減ったぐう」と思う。そのままではいけないと思い、シリアルを買った。チョコクリスピーだ。ぼくはチョコクリスピーが好きで、子供の頃は狂ったようにチョコクリスピーを食べ散らかして来た経験があり、あの柔らかさであれば朝でも水分のように食べられるかもしれないと考えてスーパーマーケットで買ってきて朝、目覚めと共に冷蔵庫から牛乳を出した辺りで「うっ、何も食いたくねえ」という気持ちになってきた。それでも我慢して床におっちゃんこし、ざららとお椀にチョコクリスピーを入れて牛乳をかけて食べ始めた。美味かった。うまかったけれど、今、大人になったぼくには、あの色のついた牛乳がどうにも気持ち悪く思えてきた。おいしいけどくどいというか、かたいというか、重いというか、なんか吐きそうな感じだ。硬水のかたさだ。のどに入っていかない、胃がちょっと拒否する重さだ。食べられないことはないけれど、それでも続けられないかもしれないと思いながら、チョコ味の牛乳を飲み干した。
 
 会社では新人の女の子のOJTをしている。寡黙だけれど冗談を言うと笑ってくれる。しょうもない冗談で笑ってくれるのは嬉しいが、無理に笑っていないかが心配だ。教育中に空気がぴりりとしてくるの、ぼくは大嫌いで、できればのんびり適当にやっていたいし、そういうやり方を少しでも伝えられればいいなと思う。非常に物覚えのよい人で、ほとんどメモも取っていないようだが、そつなく仕事もこなす。ぼくは記憶力がすこぶる悪いので、まるで違う生物のようだなあと思う。今の現場には嫌な人がひとりもいないので、仕事はきっとやりやすいと思う。電話応対が苦手だと言っていたけれど、ぼくが簡単なカンペを作り、電話してもらったらすらすらと言葉を発する。声は震えていたし、怯えた小さい声だったけれど、混乱しなかった段階でパーフェクトクリアだとぼくは思う。本当に電話が苦手な人は、はちゃめちゃになってしまう。ぼくがそうだ。今の会社にはもう6年くらい居るから、色々な人をOJTしてきたけれど、この人は大丈夫そうだなあと思う。そういうのはなんか、物腰とか視線の動かし方とか、応対とかで感じるものだよなと思う。そして根本的には、根幹的には、根源的には、仕事の出来不出来なんかどうでもよくて、一緒に仕事場にいて不快ではないかどうか、そこが最も重要です。あらゆる人間関係において重要であるように、そこが最も重要です。
 
 今日はお昼にびろーんと起きて、洗濯をごっしゅごっしゅ動かし、そうしながら会社指令の研修動画を見ていたのだけれど、動画があまりに眠すぎるので途中で眠ってしまった。気がつくと終了画面が出ており、次の動画を寝ぼけながら再生し見ているうちに寝ていた。それから次の動画を再生し寝ていた。ということを8回ほど繰り返しているうちに研修は終わっていた。研修というやつは体が健康になるものだと思った。なぜなら研修動画を終えたぼくは眠気がすっきりとなくなり元気になったからだ。窓にかけていたタペストリーを外すと夏の光が部屋の中にバアアァァァッと入ってきた。大地を覆う影が去って行くように。それから料理をした。まずウインナーを三本、耐熱タッパーに入れる。それから卵を三個、タッパーに割り入れ、軽くかき混ぜる。それから蓋をしてレンジで2分加熱する。するとタッパーが爆発しそうになるので、そこでレンジを停止する。今日は爆発しなかった。卵4個だと爆発する確率が非常に高くなるが、3個ならあまり爆発はしないということがわかってきた(時々は爆発する)。よく言われるように料理は科学なのだ。ぼくは何度も失敗しながら、ついに卵を電子レンジで加熱調理して、しかも爆発をさせない方法をみつけたのだった。耐熱タッパ―の中には膨らんだスクランブルエッグと茹でウインナーみたいなものが入っていて、死ぬほど熱くなっている。電子レンジで調理することの何がいいかというと、油を使わずに加熱出来る点にある。つまりヘルシーなのである。フライパンでスクランブルエッグを作ろうと思ったらサラダ油が必要だけれど、レンジ加熱はそれがいらない。ただし爆発の危険を伴う、ということだ。電子レンジは最高だし、耐熱タッパーはもっと最高だ。ぼくは油があまりすきではない。牛肉の脂身とかも、食べるとウッとなるので残す。大抵の人は「えっ脂身食べれないの!?(めっちゃ食いそうな顔してるくせに!)」と驚く。だっておいしくないし吐きそうになるんだもん。ぼくは甘いものは死ぬほど食べるが、脂っぽいものはそれほど食べないのだ。でもラーメンは毎日食べる。こういうのも偏食というのだろうか。
 
 薬が全然手に入らなかった。この間、メンクリで処方箋を貰って、その病院の近くの調剤薬局にマップを見ながら行ってみると休みで、それもそのはず日曜日であった。どうも調剤薬局というものは日曜日は休むものらしく、マップに乗っている薬局は軒並み休みだった。じゃあ翌日、地元の薬局に行ってみようと思い、翌日の会社帰りに帰路の薬局に向かうとシャッターが降りていた。ぼくは世界がぐにゃあと歪んで足元から崩れ落ちていくような現実感の喪失を覚え、マップを確認してみると休業になっていた。よく考えると今週の月曜日は祝日だった。薬局は土日祝が休みらしかった。勘弁してくれよと思って、じゃあ明日また行くかあと帰宅して翌日、会社帰りに帰路にある薬局をたずねると営業していた。やっと薬が買える。すぐに必要なわけではないけど手に入らないという状況がなんか面倒くさい。レジの薬剤師のおばあちゃんに処方箋を渡すと「この薬は今切らしていて無い」「明日なら入荷する」と言われて薬局を出た。それから近くにあるもう一つの調剤薬局を訪ねると全く同じことを言われた。明日来い、という。なんだこれはと思った。RPGのお使いクエストみたいだ。じゃあ明日でダイジョブです、とお願いして帰宅して寝て今日である。さっき薬局に行ったらようやく薬をもらえた。もらえたのはいいが、3700円くらい取られた。この薬ってこんなに高かったっけ? ジェネリックにしてもらったけれど、それでも異様に高く感じる。半年くらい無くならない予定だからいいけれど、それにしても、散々苦労して高い金を出して薬を買って、それでようやく「普通の人」の感覚を買っているのって、なかなかしんどい話じゃねえ? って思う。普通の人たちは生まれた頃からみんなこんなに快適なんでしょう? って薬を飲み始めた頃は、思ったものです。彼らも一日くらいはぼくたちの感覚を体験してみるべきだと思うけれどね。