美容院に行ったよ

 姉の家から帰宅してyoutubeで動画を見た。
 今、バイクが人気で免許取得が増えているという番組だった。そのためバイク事故が増えているらしい。人口が増えれば事故も増加する。ちょっとしたバイクブームは一体どこから来ているんだろう? そのブーム時期と重なるようにしてぼくも免許を取ったし、今は大型の教習に通っている。そのことに何か意味があるんだろうか? おそらくあるんだろう。知らないうちに刷り込まれている何かが。番組が終わっても動画を流し続けていると、何故かトゥレット症の人たちの番組が次に映し出された。トゥレット症というのは要するにチックのことなんだけれど、何のきっかけもなく突然大きい声を出してしまう病気のことだ。とんでもなく生きづらそうだなと思った。ぼくはその生きづらさを想像することができた。授業中や、人の多い商店街や、電車の中や、会社の面接中や、場所は問わず、15秒に一回くらいのペースで大きい声を出してしまう。人に注目されるし、笑われるし、馬鹿にされるし、誤解される。原因不明なので有効な治療法もなさそうだった。とてもつらいなと思った。ぼくもすこし生きづらい人生を生きてきたと思ってきたけど、ぼくのつらさなどはイージーモードだ。不眠と対人恐怖と異食恐怖が多少あるくらいで、五体満足だし、やりたいことも自由にやってきた。これ以上何を望む。と夜中に悶々と考え込んでしまい、気がつくと朝5時だった。自分でもよくわからないが、美容院に行ってみようと思い予約を入れた。それがぼくなりの小さなアンサーであり、第一歩だ。何に対しての? たぶん自分の生きづらさに対しての。
 
 予約した通りの午後三時に美容院に着いた。今日は気温が37℃で汗だくだった。首に保冷剤を巻いてミニ扇風機を最強にして風を浴びていたけれど汗だくだった。生きづらすぎる。汗だくで始めて行く美容院は生きづらすぎる。狭い階段を上がって美容院に入ってみると待合席みたいなものはなく、散髪スペースがどーんとふたつあるだけの、せまいけれど爽やかな、ナチュラルな感じの美容院だった。やくざな駅前の1000円カットとはまるで違う。茶髪の兄ちゃんが現れ、ぼくは席に座る。席に座ったけれど暑すぎて汗だくだった。兄ちゃんはぼくのために扇風機を貸してくれた。ぼくは刈り布の中で体に風をあてていたけれど汗だくだった。ずっと汗だくだった。生きづらかった。なんとなくかっこいい髪型になったけれど、それが1000円カットと違うかと言われると、そんなに大差ないような気もした。でも予約出来て待ち時間がないし、シャンプーが気持ちよいし、家から近いし、兄ちゃんは口数が多い方ではなかったのでまた行こうと思う。
 
 いったん帰宅して、今度はメンタルクリニックに行った。電車に乗っている間もずっと首に保冷剤を巻いていた。悪目立ちするアイテムだけれどもう背に腹は代えられない。ぼくにはこの世界は暑すぎる。どうしてみんな平気そうな顔をして暮らせるのかまったくわからない。何をしても暑すぎるよ。ぼくは砂漠ではなかった。ぼくは滝だ。滝はメンタルクリニックのある町で電車を降りた。そして久しぶりにメンタル先生に会った。最近はほぼまったく眠剤を飲んでいないのでいらないということにした。飲んでない薬が余り始めている。しかしSSRIに関してはとりあえずまだ処方してもらうことにした。SSRIは三か月分くらいどばっと処方してくれることになったが、ぼくは割って薬を飲んでいるので、実際に無くなるのは半年後だと思う。ここにあと半年来ないのか、と考えてみると、なんだか妙な気持ちになった。
 
 再び帰宅して、夕食を作ることにした。
 生卵四個を耐熱タッパに入れて軽くかき混ぜ、そこにウインナー4本を入れる。そしてタッパーのフタをして電子レンジに入れ、900Wで2分30秒加熱する。するとタッパーは爆発する。
 やはり料理というものは、爆発するからこそエキサイティングなのだ。