エンドロールは夜の国道

 休暇一日目。
 レンタサイクルで多摩川に行こうと思った。
 理由は特にない。なんとなく行こうと思った。
 14時に家を出た。帰宅したのが20時だった。
 都合6時間、自転車で走り回っていた。家から多摩川へ、多摩川から東京湾まで走った。
 東京湾は海だ。
 様々な景色を目にした。けれどほとんどの光景を忘れてしまった。光、風、車、人、斜面、そして獰猛な緑。そんなものが見えた気がした。獣、喫茶店、父親と娘。
 春の町並みは美しかった。気温は27度で蒸し暑かった。しかし耐えられないほどではない。
 天気は曇り。僕は電車でも原付でも自動車でもなく自転車に乗る必要があった。
 自分の力で前進することが必要だった。
 それは根本的に生きることと同義だった。そして走行中に分かったことがひとつある。僕は根本的に二輪車の運転が好きだ。そして根本的に楽しいことが好きで、根本的に楽しいことを瞬時に理解することができる。まるで鋭敏なレーダーのように。
 二輪車の利点は軽量であること、安価であること、そして快適ではないところ。雨が降れば雨に濡れ、風が吹けば転びそうになり、顔に虫が飛んでくる。つまり四輪車との違いは、その情報量の差だった。二輪車は守られていない分、圧倒的に感じることが多い。動いているのは僕自身なのだとはっきりわかる。
 とてもよい休日。
 膝と尻と手のひらが絶望的に痛んではいるものの、往復約60kmの旅は痛快だった。
 東京湾はちどり公園に着いた時、ベンチに寝転がってぼんやり浮かんでいるタンカーを眺めていた。まったく人のいない海際の公園だった。遠くにろうそくのように火を灯した煙突が見えた。
 暗くなってから巨大な国道を走り抜けて帰ってきた。
 真っ暗な長い道を自転車がひたすら駆けているエンドロール。

 

今週のお題「好きな公園」