登山道には色とりどりの人間が並んでいた。
 高価なアウトドアブランドのトレッキングシューズ、ザック、高機能アウターにくわえ、トレッキングポールまで装備した人間達だ。
 ぼくは道の脇に寄って立ち尽くし、彼らが通り過ぎるのを待っていた。
 彼らは一様に足元をしっかりと見据え、他の人間から遅れないように、ひたすら歩みを進めている。何かに耐えているように。
 人間の行列が途切れ、そろそろぼくも進もうと思った時、おばあちゃんがやってきた。
 とてもゆっくり歩く、ひとりのおばあちゃんだ。
 その人は、やはり他の登山客と同じように足元をしっかりと見据えていたけれど、自由に見えた。
 耐えることを強いられていない。まるで最初からそういう生き物だったかのように、緑に馴染んで見えた。
 ぼくもそういうものになりたいなと思う。
 しずかになった山道にのっそり足を踏み出すと、隆起した硬い根が靴の裏に触れる。木漏れ日がレース細工のような複雑な模様を描いている。沢を流れるせせらぎが思いのほか近い。土と草のにおい。
 たくさんの人間がぼくを追い越して行った。
 たぶん、木みたいに見えただろう。