過去の自分の書いたものの何がそんなに私を苦しめるのか。
本当はそんなに苦しくないんじゃないか。
「昔の文章を読むと吐き気がする」という思い込みがフィジカルに作用するほど強く無意識の領域にまで刻み込まれているだけではないのか。
そのような仮説を立てた。実験した。
『2017年10月6日の日記』
朝早く起きすぎた気がする
少しだけ鬱があったが20点くらいだった
朝飯が死ぬほど美味かった
最近ユーモアを失ってる気がする
グレゴリーザムザのことがうらやましくてたまらなかった
吐き気がして眩暈がして動悸が激しくなった。
かなしくなった。さみしくなった。
グレゴリーザムザは「なりたくないもの」で、うらやましがるものではないんだよと思った。
『2017年10月21日の日記』
色々なことをやめたくなってくる。
人間の勝手さに苛立つ。お客様体質にむかつく。誠意がない。他者をコンテンツとしか思っていない。馬鹿みたいだ。そんな人達のためには何もしたくない。
もうやめてくれと思った。
お前みたいなやつは文章を書かないでくれと思った。
かわいそうすぎる。一体彼は、何と戦っていたのか。
それからざっと日記を読み流していくと、あまり悲しくなくなってきた。
単純に事実を列挙するだけの書き方に何故か変わっていたからだ。
それはそれで面白くないなあと思った。
『2020年8月22日の日記』
大きなアリが小さなアリを運んでいた
結構いいこと書いているなと思った。
山頭火の自由律みたいじゃないか。
『2020年8月22日の日記』
ポケモンマスターになった後の荒廃した中年のサトシが見たいな。
やっぱりこいつはダメだと思った。
しかし、だんだんわかって来た。
私が過去の私の文章を見て「うわっ」となるのは、主に私が感情を書いている時だ。
いやだとかくるしいとか書いてあると、顔を背けたくなる。
反対にたのしいとかうれしいとか書いてあっても、なんか小さいことで浮かれてるなあと思ってしまう。
読んでいて一番面白くないのは、やっぱり事実を列挙しているだけの文章で、それが日記として正しいとは思うけれど、何かの説明書のようにしか見えなかった。他人が書いたみたいだった。
どっちがいいとかはない。結局どっちも悪い。自分が書いた文章を、自分で気持ち悪く思う、って健全なんじゃないかって思った。
書いた文章が全部好きだって思っている自分を想像できないし、それはそれでバランスを崩しているみたいだ。
かといって全てがくそでゴミで、私を傷つけてばかりかというとそういうこともない。なんとも思わない退屈な文章もあったし、すこしは笑える文章もあった。
そういうものかもしれない。
すこし前の自分でさえすこし他人で、昨日の私ももう過去の人だから、自分が書き残したものを肯定的に受け取れるように努力しようとしなくてもいい。
なんかわからないけど、この人は自分なりに精一杯がんばって生きて来たんだなあっていう妙な感慨だけがさみしく心を漂っている。
今日は読み返す。
明日からは、また読み返さない。
3 休日
上野の駅近くのアパホテルで目覚める。変な夢見たな。自分の手が見えない夢と、部屋に知らない人たちが勝手に入ってくる夢。なんで入ってくるのかきいても答えてくれなかった。ホテルでの気分はマジで最悪。飲みすぎた日はいつもマジで最悪。
・何故か首の骨を抜きまくってしまったな。
人に誇れることをひとつでも多くやることだ。
そして人生を楽しんでいれば、それでいい。
・e26 60wまで
ゴキジェット
歯ブラシ
コップ
電源タップ
延長コード
洗濯機
このムカつきは保身・防衛的なムカつきだ。
カナブンに飛びかかられてびびる女子高生
40歳まで生きてたらグルメになろう。
トイレが爆発した。
生きるのって難しいな。綺麗事では済まない。トイレが爆発した。
セミの声が降ってくる
神田川にでかいこい
小さな声で歌うおばあちゃん
カラスとドバトとセミの声しかしない道
感情を描くには、ある程度の資格が必要
うる星やつらの派手なタオルを首にかけたなんか偉そうなハゲメガネが電車の優先席で足を組んでいた。意味がわからない光景だ。
買い物は五千円ぴったり使ったな
ホームセンターで爪切りをさがせた人、優勝
蒸しタオルで自分で顔をふかされる
何かをしよう。きちんと何かをして生きよう。
自分の思い通りにならないからいじけてるだけ
すごく横柄な受付の眼鏡おばさんが、テーブルの下から拳銃型の体温計を取り出して素早く私の額に向ける。
地下の待合室で、阿蘇山大噴火さんの隣でとろろうどんを食べたよ。
なんであんなことをしてしまったのか、今になって凄く後悔しています、という犯人はやはり、その時すこし狂っているんだよな
すこし狂っている
ミスしない、は狂った目標では?
学び直すって、恐怖を思い出すことだ
複雑な価値観を持っている人間が賢いかというとイコールではないよな
肩の上でトルネードが出来るリュック
スターバックスにいないとオシャレ力を保てないのか?
電車を待っていたら膝の上をでっかいハエトリグモが登ってきた。うおって言って指で飛ばした。
鯉たちは何を考えているの、一箇所にみんな集まってしまった
いつもそうらしい。池のはじっこで。
お金を2万くらい下ろす……した。
パンをめちゃくちゃ買って帰る。した。
誰でもいいんだ?
生涯で一番平穏な生活をしている
繊細で、下品
いつも隣に受験生がいてくれたらな
携帯がついに割れた
暗闇の限界
光の限界
やることがなくて困るんではなく、いつもやることが多すぎて絶望すんだな
結局一歩も外へ出てないな
単純に真面目そう、目立たない、地味、って状態は普通じゃない。普通以外なんだ。
青空の下、傘を差す背広のおじいさん。
犬が路上で動かなくなっちゃった兄さん
北風が気持ちいいなと考えていたら階段から三段落ちた
小さいカラスが水瓶で水を飲んでいた
点滅する十字架
・U杉さんがめちゃくちゃ金玉について話してくる。どうもK谷さんがパンティーを履いていると勘違いしていたらしい。
・図書カード買う人を初めて見たな
・アルコール以外で、ニコチン以外で、カフェイン以外で、脂質以外で、って体にいいことばかり考えていくと、特に食べられるもの、無いのよな。豆しかない。
・ゴミ出しをして偉い!
・生存ハラスメント、生きてるだけで気持ち悪いから
・チーズでキムチが隠してある
・切実に割り箸が必要だな
・何もできなくなった一日だった
・この人にはもう私はいらないな、という感覚
・透明度低すぎの川 みどり
『2012年の日記』
自分が大人だと気づいていない人間は多い。
俺は小学生の、一番多感な時期を、一番抑圧されて成長した。
中学生になると、少しずつ開放していった。
しかしそれは巨大なストレスになって俺を蝕んでいった。
子供時代から抑圧されていた自分はきっと歪んでしまったのだろう。
それが良いほうか、悪いほうなのかは分からないが。
高校になって、更に開放されていった。
というよりも、より享楽的に、なっていった。
楽しい瞬間も、もちろんあった。
しかしそれはもう記憶の片隅に追いやられて影も形も無い。
俺は新装に入った。
そして抑圧と開放のちょうど中間をさまよっていた。
俺の人生はめちゃくちゃだ。
毎日毎日、苦悩して、病気になって、なんとかやり過ごしてきたが、もうそろそろ、心から幸せに生きても良いんじゃないか?
それを行うにはどうすればいい?
『2006年の日記』
昨日深夜に帰ってきたら、家の前に猫が6匹も居た。
親猫が1匹と子猫が5匹いて、それらはかたまって遊んでいた。
僕が近寄ると子猫達は凄いスピードで逃げていったが、親猫だけは逃げなかった。
僕はそいつを撫でながら辺りを見た。
そう遠くもない暗がりの中から光る目がこっちを見つめていた。
僕は子猫に触りたかったので、親猫をいじりながらひたすら子猫たちを待った。
全然出てこない。
それどころか、木に登ったり喧嘩の真似をしたりしてどんどん遠くに行ってしまった。
親猫も変な鳴き声を上げながらどこかに行った。
僕は空しくなったので寝る事にしたが、一匹だけうるさい蚊がいて眠れなかった。
僕はそいつを叩き潰す事を決心したが、思ったより要領のいい蚊だったようで、どこかに消えてしまった。
仕方が無いので頭まで布団をかぶって寝た。