かなりよい一日

 5時間しか寝られなかった。眠剤を飲んだけど効かなかった。寝ぼけながらシャワーを浴びて8時頃家を出た。駅からサラリーマンとOLが長い長い列になってこちらに歩いてきた。その列は途切れることがなかった。みんなワイシャツにスラックスだった。強い陽射しに照らされてのろのろ歩く姿に難民を想起した。あるいは幻みたいだった。私の住む町には大きな公的機関の施設があって、彼らはそこへ向かっているんだろう。
 電車の中は涼しかった。乗客は少なく、静かだった。車窓を晴れ間と穏やかな街並みが過ぎていった。幸福だった。
 デパートの地下にある映画館は開場5分前で人が並んでいた。人が並んでいる映画館に行ったことがないので珍しかった。並んでいるのは私より年上の方がほとんどだった。平日の朝だから。チケットを発券して座席に座った。客はやはり私より年上と思しき人たちだった。私は藤本タツキさん原作の『ルックバック』を見に来た。だから客層が若いはずだと思い込んでいた。間違いだった。劇場版ルックバックは面白かった。上映時間は90分くらいだろうと予想していたけれど57分だった。物足りなさはなかった。ただ、そんなに短い映画は知らない。時々すごく面白い作画があった。それから、やっぱりとてもいい話だと思った。マンガを描くというのはどういうことか、という話だ。
 帰宅して北野武監督『首』を観た。ネットフリックスで配信されている。織田信長の狂気と、豊臣秀吉の狂気と、時代の狂気の話だ。一族郎党皆殺しについて考えた。ベトナム戦争がテーマの『プラトーン』にも同じようなシーンがあったけれど、罪もない人々を皆殺しにし、最終的に村に火をつけて焼いてしまうという状況は、世界各地で何度も繰り返されてきた光景なのだろう。どうしてそうなるのか考えた。憎しみや怒りもあるけれど、単純に生き残った人間が復讐に来る可能性があるからだ。老若男女関係なく、武器を持てば人を殺すことができる。だから一度でも交戦状態になったら敵と敵の周辺人物をすべて殺してしまわないと安心できない。怖くてたまらないから殺す。
 洗濯をしながらペットボトルを洗ったり空き缶を洗ったりした。マンションの管理会社に電話をかけ、健康診断の予約をした。それから4時間、会社の研修動画を見た。風呂に入りながら『ルックバック』と『さよなら絵梨』を読んだ。今日は休日とは言えないんじゃないかと思った。行動し過ぎて疲れてしまった。でも、かなりよい一日だった。
 たのしかったり、がんばったりしたんだ。