輪廻フィーリング

 ガンエボでプラチナ2までランクアップしたけれど、ソロランクなので野良の寄せ集めだから、チーム内の連携なんてあり得ないわけで、時々チームを意識できるプレイヤーがいて、そういう人たちが上手くキャリーして勝てるゲームを作っていったり、あるいは単純に個人技が突出したプレイヤーが敵チームの頭数を減らしてくれたら、僕ら烏合がそこになだれ込んで数の力でなんとか押し返す、みたいなゲーム展開ばっかりだったにせよ、とにかくちょっといいところまで、上記のような運によって上がっていったわけだけれど、運によって上がるということは、運によって下がるのが必定なわけで、連敗を食らってゴールド1まで急降下して完全に気持ちが折れてしまい、紅茶を淹れて飲みながらしばし放心状態でモニタを眺めるなど、もはやゾンビというかミイラ、ミイラというか無、無というか僕で、どうしたら勝てるのかもうスフィンクスのなぞなぞよりも謎、黄金ジェット、クリスタルスカル、答えは人間、スーパーひとしくんボッシュート、などと連想が飛躍し、もう何もかも投げ出して心も閉鎖し、深く深く潜ろうかなと思い、友人からのメッセージもすべて無視し、家族からのメッセージもすべて無視し、メンヘラとなり、全然上手くならないし敵も倒せるようにならないし、才能がないんだ、このゲームアンインストールしてもう二度とやんない、と思ってふてくされて座って20分くらい無になっていたのだけれど、最後にもう一回やってみるかと思ってランクマッチを開始したら、敵チームが妙に弱く、回避行動が遅いのでヘッドショットもばんばん決まるし、ボムも当たるし、僕は意外と上手いんじゃないかと思ってプレイヤー情報を見たら僕よりレベルの低い相手ばかりで、ああこのチームは経験が足りないだけか、と思ってなんとなくつまらない気持ちになって、久々にMVPを取って、僕のペイルライダーが勝利画面で決めポーズをしたけど、じゃあ結局、僕は上手くなってたんだなと思って、僕が勝てないのは僕より格上と当たりまくってたからで、下手なわけではなくたしかに上達しているんだけれど、はじめに比べたら全然上手くなっていて強くなっているんだけれど、上には上がいて、上は数えきれないほどたくさんいて、そして下も数えきれないほど下がいるという、ただそれだけのことで、上に比べたら僕は下手で、下に比べたら僕は上手くて、それは万事がそうで、森羅万象がそのように出来ていて、スポーツなんかはそれがより如実で、三年間みっちり練習した野球部員が一度もスタメンになれなくてずっと万年補欠でいるなどのエピソードを、僕はふーんそういうこともあるよなあくらいにしか思っていなかったけれど、その気持ちが、悔しいと思う虚しいと思う気持ちが、どれだけ練習して努力しても駄目なことがあるという事実が、今はっきりと分かる。
 そこには才能もあるし、家庭環境もあるし、努力の量もあるし、年齢もあるし、性別もあるし、身長の高さもあるし、自由時間の量もあるし、伸びしろもあるし、あらゆる要素が強さとか上手さに関係していて、そのすべてが結果として表示されていて、勝つとか負けるとかがある世界では、そのすべてを無視した結果だけが表示されてしまう、その単純で強靭な結果だけが残る。駄目だったら駄目だった、強かったら強い、それだけのものすごく厳しい世界があって、そして誰もが何らかの形でその世界に組している。その世界でみんな生きている。それに気づいている人が大半で、気づいていない少数の人の中の僕もいる。どっちでもいいし気にしても仕方ないことではあるにせよ、そういう仕組みを体験し体感し蝕知することで僕はちょっと眉毛が凛々しくなった。何にせよ己との戦いはいつまでも続き、世界との戦いは死ぬまで終わらず、勝つとか負けるとかがすべてではないにせよ、勝つとか負けるとかを意識することで、意識してしまうことで現れる行動というものもまたあるのだろうから、僕はやっぱり勝ちたい、もっと上手くなりたい、上手くなって外黒さんってゲーム上手いですね、かっこいいですね、プロゲーマーを目指したらどうですか、外黒さんはゲームの申し子ですね、世界一ですね、生きていますね、死んでいませんね、ステーキ似合いますね、タピオカもいいですね、スーパーひとしくんあげますね、などと言われたいし、言われなくてもせめて自分で自分を認められるように、上手くなったじゃないか、ねえ、前よりずっと上手くなってもう充分じゃないか、と思いながらゲームをアンインストールし、そしてあたらしいゲームをはじめたいと思う。そしてあたらしいゲームの中で絶望し、僕はまた何度も何度でも目覚めよと呼ぶ声を聞き、叩きのめされ、立ち上がり、理解し、また歩き出す。輪廻した心や気持ちが五感を呼び覚まし、感覚器が記憶をキックし、そしてかつて同じようなことをどこかで感じたかもしれないなと、もうはるか昔の閃光を、眼前の敵の銃口に垣間見る。