悪なので殺します

 アニメでも映画でも小説でも媒体は問わず、主人公たちと敵対しているキャラクターが、特にザコキャラクター達が、瞬間的に血をまき散らしながら死んでいる。そこにドラマはないし、その死に、ほとんど明確な説明もない。悪の結社のコスチュームを着ていて、主人公に銃を向けていれば、ただそれだけで悪なので殺します。ザコキャラクターにも、いつも履く靴や、家族と撮った写真があるはずなのに、それは物語の趣旨には関係ないので殺します。人間に、そういう仕組みがあることは、宇宙を支配している原理だった。現実にわれわれ人間は、その瞬間的な、殺意にも満たない反射で悪を殺している。うでに蚊が止まった時、殺してやるとか思わないし、この蚊にも命があるんだ、なんて思わずに、汗を拭くくらいの気軽さで蚊なので殺します。好きなものを守ろうとする力と同じくらい、悪を殺す力は自然で、どちらも同じようにグロテスクだった。白血球がなにも考えずに体内のウイルスを駆逐する、生きる力っていうのは、そういうものなのかもしれない。どんな人間も内臓を蠕動させ、皮膚の下に黒い血を流していて、そんなものはまったくグロテスクではなかった。悪を殺すことに比べたら。