お母さんはいつか死ぬ

 故郷に帰らないことになった。母が謎の心配性を発症し「あんたが今こっちに来て帰れなくなったら困る」と言い出した。おう豪雪。一日に何回か雪かきを迫られているらしいそれは大変だなと思うしそうなれば新幹線だってワンチャン止まるかもしれないから心配もわからないではないがそれにしても昨日は「あんたの、顔が、見れるの、うれしい」と読点のやたら多いお年寄りのメッセージを送って来たから新幹線もネットで予約してあとはコンビニでお支払いのところまで進めていたのに母が来るなというのに行くのは意味が無いから、というのも今回の帰郷はただただ親孝行をしようと思っての帰郷でありそれ以外の理由がまるで一個もないというピュアな親子愛の顕現だから、母の心配を押してまで帰る理由がなく、だから「まあかっちゃがそういうなら今度にするかあ」などと電話口で伝えながら、心ではめんどうくせぇ~~~~という気持ちもわずかにある。新幹線のネット予約をするために色々な調べ物をして結構時間がかかったのだ。えきねっとの会員登録、ICカードとネット切符を紐づける方法、クレジットカードは何故か二回弾かれてクレカ会社から「すみませんセキュリティが強く反応しすぎたみたいで」とよくわからない説明を受けた。強く反応しすぎたって具体的にどういう意味ですか? ってうちの上司なら確実に詰めてるところだなあと思った。難解な説明を省くための言い方の妙というか、結局コールセンターの人も詳しいことは分かってないってぼくはわかってる。なぜならコールセンター側の人間だからだ、ぼくは。結局面倒になってコンビニ支払いを選んだから、いつお金をおろすかとかどこのコンビニで払うかとかどのタイミングで払うかとか最後まで頭の中で計画は進んでおり総合計3時間はかかってる、3時間分の労働が、母のたった一言で無駄になったから、そりゃめんどくせぇ~~~~と思うくらい許されてもいいと思う。たいした理由のない正体不明の心配性のせいで結構な面倒くさい時間を全部無駄にされたんだからめんどくせぇ~~~~と思ったっていいだろう。そこまでぼくはいい子ちゃんぶりたくはない。高尚でも高潔でもないよ。普通にめんどうくせぇよ。母と電話したあと家に帰って昨日登録したばかりのえきねっとで予約したばかりの切符を取り消しして、そしてその面倒くささを母に一切伝えないぼくはある意味でいい子ちゃんで、そしてなんとか親孝行をやりとげようとしている子供に過ぎなかった。ぼくはずっと前から親孝行してやりたいと思っている。母が可哀そうだと思っている。母は可哀そうな人だと思っている。母のことを考えるととても悲しくなる。母には感謝している。めちゃくちゃな人生を歩んでいる人だ。だれかがすこしくらいねぎらってやってもいいだろう。そしてそれが出来るのは結局ぼくだけなのだ。そうなればもう、手を尽くすほかないじゃないか。