さいきん、すこし太ってきた。
でもよく考えたら、ぼくは昔やせていた。
1500グラムだった。
だから別にいいじゃないか。
老猫のように疲れている。
無数の透明な手がぼくを地獄の底へ引きずり込もうとしているかのような重力を感じている。
東京タワーだ、とぼくは思う。ぼくの体にでっかい東京タワーが乗っている。
ぐるぐると東京タワーが回転している。すると、体がふらふらしてくる。
ぼくはよたよただ。振り子のように揺れている。ぼうふらのようにくねっている。もうすぐ死ぬのだ、とぼくは思う。
おさらばだ、諸君。アミーゴ。同志よ。ドラゴンボーン達よ。
と、考えてもいない言葉が、とめどなく空気発生している。
認知能力が低下しているのだ、とぼくは言葉の傷口を押さえ、言葉の包帯を巻く。
あふれ出しているのだ、真っ赤な言葉が。
話獣。
人間はわじゅうだ。言葉を話す獣。そんな言葉はない。でもぼくはその言葉を思いついて、勝手にわくわくしている。
言葉を制御しきれない。力が……暴走するッ!
しない。
言葉とはうらはらに、最近のぼくは規則正しい生活を送っている。
食べ、眠り、働く。プリズンの建設に余念がない。にんにくの漬物を食べている。
うめぼしも食べている。それに、コーンフレークも。ビタミン剤を一錠、野菜ジュースを一パック。十六茶をひとくち。顔に化粧水を塗り乾燥を防ぐ。。はずかしくない髪型に整える。制汗剤を、ふりかける。やわらかいスニーカーをはく。胸を張って、立ち上がる。エアコンの電源を、切る。リュックサックを背負う。
ぼくは、仕事で怒られる。
おさらばだ、マイファミリー。父よ、今行く。母よ、先立つ不孝をお許しください。姉よ、すこしやせなさい。でもよく考えたら、姉も昔はやせていた。1500グラムだったこともある。だからノー・カウントじゃないか。ベッドの上で気が触れたように、転がり回る。土石流のような、いきおいだ。ぼくは人間竜巻だ。ぼくはドッグランの犬だ。エアコンの電源を、いれる。お風呂に、入る。静的ストレッチをする。からだが、のびる。
1時間、本を読む。声に出して、浴びるように、部屋に、雨が降るように。
そうしているあいだに今日を生きたぼくという人間はもう消えてなくなっています。