ぬるま湯い日記

 なんか一瞬、秋のにおいがして宇宙の感じがした。
 秋のにおいはさんまを想起させた。それから石油と薄い排気ガスの匂いが際立った。
 襟巻を想起した。ぼくは今年も襟巻をして歩くのだろう。襟巻は好きだ。襟巻をしている人も結構好きだ。でもねじねじはあまりよくわからない。もこもこの襟巻がいい。襟巻はあたたかい動物のようだ。でも動物の顔がついているようなのはあまりよくわからない。ぼくは動物愛護団体に入るべきなのかもしれないと時々思う。動物のことになるとぼくは少しおかしくなってしまう。動物を粗末に扱うな、このやろうども。と思ってしまう。きっとぼくみたいなやつがシーシェパードになるんだろうと思うと自戒もある。しかしペットショップはいつも動物を物のように扱っている。そのことで胸を痛ませているのがぼくだ。夢見がちな少女のようにナイーブな中年大和男(ちゅうねんやまとおのこ)がぼくだ。ぼくはさっき風呂から上がったばかりだ。風呂上がりに牛乳を飲んだ。つめたい牛乳だった。ぼくは牛乳をミルクと書くのが嫌いだ。ミルクはなんかぬぽっとしている響きがあってあまりよくわからない。牛乳と書くとちょっと低脂肪の感じがするから好きだ。ぼくは2時間くらい熱湯に浸かる入浴スタイルで生きてきたのだが、最近はぬるま湯に30分だけ浸かるというスタイルを試している。疲労回復にはぬるま湯に20分がいいらしいとネットで読んだからだ。たしかに熱湯2時間一本勝負をしていると、はっきり言って死にそうになる。立ち眩みと吐き気がすさまじいこともあるし風呂上りは何も出来ない。半死半生になる。ブラックアウトして風呂場の前に倒れたこともある。なぜそんな入浴スタイルをしてきたのかというと、これも好きだからだ。熱すぎる湯に茹でられていると体中の老廃物がすごい勢いで排出されていくような気分になる。殺菌されているような気分になる。それに風呂の中で映画を見たり読書をしたりするのも好きなので必然的に長風呂になってしまうのだ。でもそれをやっているといずれ風呂で死ぬし、疲れる。疲れるのはよくないのでぬるま湯に30分、しかも炭酸系の入浴剤を使うという贅沢なスタイルを試しており、これが成功している。ぬるま湯に30分なんてまったく負担ではないし、物足りなさすぎるけれど、たしかに適度に気持ちがいい。まさにぬるま湯である。ぬるま湯いぬるま湯の中でぬるまっていると、なんだかリラックスしてきて副交感神経が今まさに活性化しておりますので、という感じに、中途半端なぼんやり感に包まれる。熱湯への挑戦感は失われた。ぼくはこれからぬるま湯い人生を送っていくのだ。これは示唆的なスタイル・チェンジであることだ。バブは効果があるのかよくわからないが、少なくとも森のにおいがするのでよいと思う。副交感神経系人生はこのようになんとなくだるんだるんとして生きていくことであるのだ。熱血熱湯挑戦交感神経系アドベンチャー系人生は疲れる。疲れるのは別にいいけれど、疲れると本当に何もできなくなって、元も子もなくなってしまうので改めたのだ。ところでぼくは最近ぬるま湯ともう一つ始めたことがあり、それが踏み台昇降だ。これもある意味ではとても「ぬるま湯」の感じがして示唆的であることだ。踏み台昇降なんて、なんてかっこ悪い、おじさんおばさん臭い運動であることか! その「だささ!」「やってみたくなさ!」と言ったらとんでもないことだ! でも踏み台昇降が今ぼくの中で熱いのである。あついというかぬるいのである。雑誌をまとめて紐で結んで踏み台にしている。右足をのせ、左足をのせ、右足をおろし、左足をおろす。という地味な運動を30分続ける。これが地味なのだけれど案外きついので汗がにじんでデトックスの感じがしてくる。踏み台昇降はいわゆる有酸素運動というやつであり、ウォーキングよりは強度が強いが、ランニングよりは強度が弱い、という位置にある。ちょっとだけきつい運動である。だからタイパは悪くないような気がするし、何よりもだ、何よりも部屋の中で出来るのがいいと思う。部屋の中で運動が出来て、体がすごく動くわけではないので、実は踏み台昇降というやつは「ながら運動」が可能なのだ。ラジオを聴きながら、youtubeを見ながら、スマホでゲームをしながら、という風に他の行動を実施しながら運動ができる、これはとてもいいことである。ぼくは走ったり歩いたりするのはわりに好きな方だと思うが、そういう運動というのは、なんというか、つまらないことがあるのである。初めての道を歩くとかはいいけれど、慣れた道を走るのってちょっと飽きる。もちろん無を得るために走るのですというような春樹的感覚もわからないではないしそういう気持ちになったこともあるけれど、ぼくはたぶん家の中で読書しながら踏み台昇降するほうが、現在の自分に合っているんだろうなと思うのだ。つまりぬるま湯的人生の指向性に。そして今日は30分の踏み台昇降と、30分のぬるま入浴をしたので、30分でブログを書こうと思い、机の横にスマホを置いて30分のカウントダウンをしながら、ぬるま湯い日記をしたためている。したたたたたためている。あと28秒で30分のぬるま湯い日記は終了である。しかしながら、これだけ分刻みの生活が、本当にぬるま湯いのかと問われると、これはこれで案外しんどいかもしれないと思わないこともない。