意味もなく震えながら

 髪にワックスがついたまま、歯を磨かないまま、馬鹿みたいに明るい部屋の照明がついたまま、パソコンがYoutubeを連続再生したまま、朝を迎える。眠るつもりのない睡眠の終わりにはいつも焦燥とわずかな失見当識、それに行き場を失った睡魔が残存勢力として在り、一日の始まりというものは人間が便宜的に決めたものでしかないのだなって動物を司る脳の一部が訴えている。レストインピースぼく。煌々と燃える恒星の光が壁の一部に埋め込まれたガラスを透過して部屋の中がさらりとアシッドな白色にしている。目覚めるにはまだ早い時間だったけれど歯磨きをしてシャワーで頭を洗い全体的に水気を帯びた上半身の肌から水分が蒸発していく奇妙に爽快な淡い感覚の中に在る。湿っているものって生きている感じがする。というよりも、生き物っていつも湿っていた。犬の鼻や、折れた茎から滲む花の体液や、魚の表面や、うごく水たまりのぼくたちが、枯れるばかりで溢れたりしないのは何故だろう、と言葉あそびをしているうちに、溢れるほど雨が降らないからかもしれないな、と言葉あそびで答えていた。寝巻き姿で窓際に立つといつもの排気ガスのにおいがして、それが生きている人間の世界の象徴であるかのようで、地震が来た時に倒れたままのポプ子とピピ美のぬいぐるみが、干からびたぼくと共に発掘されたら、きっとこの部屋は祭壇だったと思われるだろう。あるいは1000年後にもオタクはきちんと在り、1000年前から人間は変わってないんだなって、ぼくと同じようなことを考えたりするのだろうか、1000年前のぼくが考えたように。植物や動物には思想がありそうだけど、熱には本当になんの考えもなさそうだったので、半袖Tシャツのぼくは、意味もなく震えながら秒針を見つめている。