今週のお題「最近飲んでいるもの」

今週のお題「最近飲んでいるもの」

 

 暑い。パンツ一丁で過ごしている。汗がしたたっている。生きている。
 サッカー場が燃えている。火炎筒から炎が吹きあがる。巨大ビジョンが爆発する。観客は皆立ち上がり歌う。タオルを振り回す。私も振り回す。何が何やらわからぬままに。巨大なUFOが太陽を覆い隠したような巨大な影がゆっくりとスタジアムを飲み込む。空は紫色になっている。どこからかビールのにおいがしてくる。先輩ががなる。先輩が言葉にならない声をがなる。生きている。
 まだ風呂の中にいる。カウントダウンはとっくに0になっている。それでも私は風呂の中で読書している。修行のように、あるいは選択肢が他になかったかのように。体がうだる。骨までやわらかくなっていく。私の表面は少しずつ溶けだしている。ごくわずかずつ無に近づいている。苦痛は押し寄せ、そしてそれが答えになっている。私は天を仰ぐ。換気扇が回転している。遠くから巨大なトラックの走行音が聞こえてくる。それから壁を打つ音。誰かが階上で叫んでいる。壁を打つ音。
 バーで酒を飲む。いつものマティーニを飲む。私は酒に弱くなっている。すぐに酔っぱらってしまう。それは正しい。酒が強いということは誇らしいことではない。先輩は酒ですっかり壊れてしまった。一日にバーボンを一瓶飲み干してしまう。座って俯き揺れながらうわごとをささやいてしまう。それが酒の行きつく場所であり、それ以外の場所に酒は連れて行ってくれない。先輩の奥さんががなる。言葉にならない声でがなる。先輩は家を追い出される。空のウイスキーの瓶が庭に放り投げられる。そんなことはきっと先輩には見えていたはずだ。それでもそうなってしまう。酒は誰しもをそこへ連れていく。酔っぱらった私たちは一杯だけ飲んでバーを後にする。楽しい夜だった。我々は若くはないが、若くないということを恥じたり後悔したりするほど愚かではなかったと思いたい。

 カラオケボックスの椅子に寝転がる。先輩も寝転がる。みんな寝転がって歌わない。そんなカラオケがあってもいい。私は特に話すこともなかったので寝ている。先輩と先輩は話し合っている。何か楽し気な話をしている。彼らは4年ぶりに再会したのだから積もる話もあるだろう。私は先輩とは2ヵ月ぶりだし、先輩とは1年ぶりだった。どちらの先輩ともそれなりに話していて特に話すことがない。それでいいと思う。目の前で繰り広げられる雑談配信を見ている気持ちになっている私は無だ。凪の心でそれらを聞き流している。先輩が急にウィーアーザチャンピオンと歌い始める。とても下手な歌だ。私は手拍子をする。日本人の手拍子の文化はダサすぎてキモい。しかしそれをすると少しおかしな気持ちになって笑える。ダサすぎてキモいが、先輩は楽しそうだったから、きっと私たちは間違っていなかった。とても下手な歌声に包まれていることのふんわりとした幸福はきっと、戦場と対比した安寧だったろう。対比先をいつだって間違えている。
 羽生結弦さんが海外メディアから批判されている。批判されることもないだろうにと思う。
 アルマゲドンインデペンデンスデイを観、どちらも世紀末の、20年前の映画だった。まだ私の中では新しめの映画という感じがしたけれど、画質がいかにも悪い。しかもシナリオもなんだかふにゃふにゃして締まりがないし、カメラワークも演出もなんとなく雑っぽい感じがする。それでも当時は最新技術の結晶だったのだよなと考えると現在の技術はすごいなあと子供のようなことを考えるのはどちらの映画も子供の頃に見たからだった。アルマゲドンはマチズモ全開のマッチョ馬鹿SF映画だし、インデペンデンスデイは宇宙人への暴力がひどすぎてレイシズムを想起させるが、そういう観点を持ってしまうところは現在のポリコレ配慮の影響がたしかに私に響いていたからかもしれない。現実世界でも先輩がブスには人権がないみたいな冗談を言ったりするとき、私はこの人は一体何を考えてそんな冗談を言うのだろうと勘ぐってしまう。器が小さくなったのかもしれない。私はそんな先輩にも配慮すべきなのだろう。ある意味では未だに私はハートマン軍曹の言葉を結構真実だと思っている。“俺は厳しいが公平だ。ここに人種差別など存在しない。黒んぼも、ユダ公も、イタ公も、ラテン野郎も見下さん。みんな等しく価値がない。”ブートキャンプだからこその言葉にせよ、自己肯定感の低い私はしょうこりもなく鼓舞されてしまう。そういえばハラスメントに関するアンケートの中に「男性だからという理由で力仕事をさせられたことがある」という項目があり、考えさせられた。たしかに会社で力仕事をする時は女性は一切手を出さず、男性がみんなやっていた。平等かどうかという観点からいえば女性にも手伝ってもらうべきだったんだなあと思っている。というか力仕事の総量の半分くらいはこの私が担っている。会社ではパワー系の外黒になってしまっている。まったく、みんな等しく価値がない。
 牛乳を一気飲みした。とても暑い。部屋の気温は13℃。私は私の意見を持っていようと思う。