文章温泉低速の湯

 2024年のはじめ、30分で書けるだけ、と決めた。
 時間内に出来るだけたくさんの文字を書くルールだった。
 文章がまとまらず、何時間もかけて悩んでしまう日もあったけれど、大体30分で書いてきた。
 現在の私は、30分で1000~1400字ほどの、日本語として意味の通る文章が書けるらしい。
 続けていればもっとたくさん書けるようになるかもしれない。そう考えていた。
 ならなかった。
 急にしんどくなった。
 
 30分以内に書くという意識が強くなりすぎたからか、脳が文章の生成を拒否しはじめた。
 500字ほど書いて何もかもつまらなくなり、途中でやめてしまう。
 頭の中の小人たちが、みんなふて腐れて床に寝ている。
 大変だ。ストライキだ。労働環境の改善を求めているのだ。
 とりあえず、小人たちにジンジャーエールを配り歩いている。
 1日で1.5リットル飲み干している。小人たちはいつも甘いものを求める。
 
 調子が悪くなってくると、文章はまったく書けなくなり、ある種の軽いノイローゼのような状態になる。
 脳は痛みを感じないし、脳は疲れていることを教えてくれない。
 だめになった時、ようやく分かる。
 すこし具合が悪くなるし、文章が出て来なくなるし、気に入らなくなる。
 今回は気がついた。
 そういう日もあるらしい。
 
 いきなりアクセルを全開にして全速力で書いてきたけれど、その方法ではもう書けない。
 では、逆にしてみたらどうだろうか。
 スマホのアラームで30分計測し、出来るだけ遅く。
 可能な限りゆっくり書くようにしてみよう。
 そのようにお願いすると、小人たちは渋々起き上がり、文章を生成しはじめた。
 温泉になった。
 執筆の自己治癒的側面の意味がわかった。

 またひとつたのしみをみつけた。